時代の正体〈365〉差別の思想を非難する

【記者の視点】報道部デスク・石橋学

 差別は人を殺す-。相模原の障害者施設殺傷事件を目の当たりにし、この言葉が耳奥で響いてやまない。脳裏にある人物が像を結んだ。桜井誠氏(44)。人種差別団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の前会長にして、東京都知事選の立候補者。選挙カーの上から差別と憎悪をあおる言動を拡散し続ける。いまこそ、その思想と言説をこそ非難し、否定しなければならないと私は考える。

 動画投稿サイト「You Tube」に桜井氏の発言が残る。

 「日本で生活保護をもらわなければ今日明日にも死んでしまうという在日がいるならば、遠慮なく死になさい」

 告示日の14日、東京・巣鴨で行われた演説の一節だ。人間の尊厳を否定する、人の道から外れた言動。街宣車のスピーカーから大音量で発せられ、ネット動画の視聴回数は29日現在、7万を超えた。その後は「死ねというわけではないが」「死ぬというのなら、遠慮なく日本から出て行け」と言い換えているが、在日コリアンの存在を否定するおぞましさに変わりない。

 桜井氏が公約のトップに掲げるのが、外国人への生活保護の停止だ。外国人のうち在日コリアンら特別永住者、永住者、定住者などが支給対象となっているが、最後のセーフティーネット、命の綱を断つという。

 日本人か、そうでないかで線引きし、生きるべき人間とそうでない人間を選別する思想をそこにみる。それはまた、人を人とも思わぬ差別意識が発想を可能にさせている。
 

虚 言


 桜井氏が法務省から「在日朝鮮人の尊厳を傷付けるもので、人権擁護のうえでも看過できない」と勧告を受けたのは2015年12月。東京・小平の朝鮮大学校前で「朝鮮人を日本からたたき出せ」「殺してやるから出てこい」などと怒号を上げた言動が「生命や身体に危害を加えかねないと、校内にいる学校関係者らを畏怖させる違法行為」と認定され、同様の行為を行わないよう求められた。

 在特会を立ち上げ、14年の脱会後も「行動する保守運動」代表を名乗り、謝罪も反省もなくヘイトスピーチを繰り返す人物が「選挙運動の自由」の名の下、生活保護の停止を唱える。

 「本来必要のない生活保護が外国人に与えられ、日本人が圧迫されている」

 「福岡では生活保護が打ち切られた日本人2人が餓死した。外国人でそんなケースは一つもない」

 「何で日本が韓国人やフィリピン人、シナ人を養わないといけないのか」

 「ここは日本人のための国家だ。外国人の権利は二の次、三の次。まず日本人が幸せにならないといけない」

 「この国には、お金が無尽蔵にあるわけじゃない。日本人が差別されているなら、桜井誠が立ち上がるほかない」

 「ジャパン ファースト 日本第一」ののぼりがはためき、聴衆から「そうだー」の声が上がる。桜井氏は日本人と外国人では受給率に差があると言って、ボルテージを上げた。

 「日本人より在日韓国・朝鮮人の方が受給率が高いとは、どういうことだ!」

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