米国の大統領選は、経歴も政策も手法もまったく対照的な2人の戦いになる。

 民主党候補のヒラリー・クリントン氏は政治経験が豊かだ。女性を政界の頂点から阻んできた「ガラスの天井」に挑む。

 共和党候補ドナルド・トランプ氏は不動産業で名をなした実業家。政治の経歴が何もないことで改革の旗手を自認する。

 目をこらすべきは、その異例の構図よりも政策の中身だろう。これまで指導者として理にかなう主張をしているのは明らかにクリントン氏である。

 民主党大会での演説で強調したのは、米社会の融和だった。保守とリベラルの溝、富裕層と低中所得層の格差、人種間の緊張など様々な分断で揺れる米国にいま必要なのは、確かに国民の統合である。

 移民についても比較的寛容な訴えや、国際社会との協働を重んじる点でも、クリントン氏の立場は評価に値する。国務長官として、アジア重視政策を主導したことも記憶に新しい。

 テロや気候変動、租税回避の対策など、地球規模で取り組むべき課題が山積するいま、米国が同盟国との関係を重視するのは必然の流れでもある。

 そうした国民融和と国際協調路線に反する主張が目立つのがトランプ氏である。相変わらず不法移民を阻む国境の壁建設や保護主義的な貿易を唱え、同盟国の負担増を求めている。

 11月の投票に向けて論戦はこれからが本番だ。それぞれの公約が米国民の利益にどう資するのか、そして世界の安定にどう貢献するのか、理性的な論理とビジョンを語ってほしい。

 両党とも、候補者選びが激戦になったことなどから、党内の結束に不安を抱える。だからといって、相手候補への攻撃心をあおって団結を演出するようでは政策論争は深まるまい。

 両候補とも、自分の支持層だけを満足させる狭い政治ではなく、国民に広く目配りする包摂の政治をめざすべきだ。トランプ氏支持に走る白人労働者層の思いは何か。クリントン氏と競ったサンダース氏を支えた若者層の願いはどこにあるのか。

 先進国に共通する低成長と財政難、格差拡大の問題に、簡単な解決策はない。だが、自国優先を連呼するのは、米国の国際的な威信を低下させるだけだ。

 多極化の時代とはいえ、いまも世界の自由主義を引っ張る大国の矜持(きょうじ)を持ち続けられるかが問われている。「偉大な米国」を叫ぶならば、国際社会も認めるような米民主政治の価値を、この選挙戦で見せてほしい。