日銀の追加緩和 いよいよ手詰まりだ
日銀は追加の金融緩和を決めた。英国の欧州連合(EU)離脱問題など海外経済の不透明感の高まりに対応するという。
黒田東彦総裁は年80兆円ペースで保有残高が増えるよう国債を購入するなど「バズーカ砲」と呼ばれる異次元緩和を進めてきた。今回は株価指数に連動した上場投資信託(ETF)の購入を年3・3兆円から6兆円に増やす。従来より小ぶりだ。
大規模な緩和を3年以上続けてもデフレ脱却の道筋は見えない。さらに小出しの緩和を加えても効果は乏しいのではないか。異次元緩和の限界をうかがわせるような決定だ。
日銀はETFの購入拡大を株式市場への資金流入の呼び水とし、景気下支えにつなげたい考えだ。ただ、日銀が買い支える形で株価を押し上げても、景気の実態を反映しない。そうした相場は長続きしない。
そもそも追加緩和が必要なのか。英国のEU離脱問題で世界的な株安になった市場は落ち着きを取り戻した。米連邦準備制度理事会(FRB)は年内の追加利上げを探っている。日銀の判断は説得力を欠く。
追加緩和は政府が近くまとめる経済対策と歩調を合わせたものだ。
安倍晋三首相は「アベノミクスのエンジンを最大にふかす」と強調している。麻生太郎財務相らは追加緩和への期待を強くにじませてきた。
黒田総裁も記者会見で「政府の取り組みと相乗的効果を発揮する」と述べた。今回は緩和規模が限られたが、政府の圧力でさらなる緩和を余儀なくされると見られかねない。
異次元緩和は黒田総裁が就任直後の2013年4月から始めた。「2年程度で物価上昇率2%達成」という目標を掲げ、円安・株高が進んだが、期待したほど物価は上がらず、目標達成時期を先送りした。
14年に追加緩和、今年2月にはマイナス金利政策に踏み切った。それでも、きのう発表された6月の消費者物価指数は0・5%下落した。異次元緩和前の13年3月以来のマイナス幅で振り出しに戻った形だ。
銀行の企業向け融資や住宅ローンの金利は既に十分低い。日銀の国債大量購入による金利低下の効果は限られ、企業の設備投資や消費の活性化にはつながっていない。
むしろ異次元緩和のゆがみが目立つ。マイナス金利で銀行の収益は悪化しつつある。銀行が融資に消極的になると、日銀がいくら資金供給を増やしても世の中に出回らない。
日銀は次回9月の金融政策決定会合で異次元緩和の総括的検証を行うとも発表した。黒田総裁は「2%目標を早期に実現する観点からの検証」と説明するが、異次元緩和の軌道修正こそ急ぐべきだ。