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孤高の凡人

Anarchy in the 2DK.

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『3』の時だけブルーになる

深夜。そう深夜である。その深いコバルトなブルーの真ん中で私は立ち尽くしていた。

ブルー。そうブルーなのだ。その顔色もさる事ながら血、臓器、骨、皮膚、それら全てがブルーである。私はそのブルーな手の、ブルーな人差し指、その人差し指の先にある爪、その爪の根元にある生まれたばかりのタンパク質。爪半月と呼ばれるその部分と、コバルトな空に浮かぶ月を交互に見つめながら、立ち尽くしていた。

尻ポッケに収まっている三つ折りの財布の中では、青いインキで描かれた3人の夏目漱石が陰気に身を寄せ合って、舞台袖で出番を待つ役者のように緊張の糸をポロロンと奏でる。

時間がない。上限が定められていない有料駐車場。その料金支払い機の前で、私は立ち尽くしていた。爪半月と同様にニヒルに笑う月明かりの下で、私は左手を清算機、右手を尻ポッケに当て、アンディウォーホールが描くガンマンのようなポーズで、約30分間立ち尽くしていた。

右こめかみから汗が滴る。駐車した時間から逆算すると、おそらく現在は3000円。1時間あたり600円に定められたこの有料駐車場から、脱出するには私は私の漱石たちを全て差し出さなくてはならない。しかし、あと30分もすれば料金は3600円となり、車中泊を余儀なくされ、詰む。チェックメイト。ウノ。

本来ならば簡単な事である。車を停めた場所のナンバーのボタンを押し、3人の夏目漱石を生贄にするだけだ。だが押せない。私は清算ボタンを押すことが出来ない。

 f:id:zariganiindustry:20160730022424j:image

私が駐車した場所のナンバーは『3』である。

しかしこの清算機の中にある5つのボタンは写真のように表示されており、これが私を30分もガンマンさせる理由である。

左から順に3434■。

冷静に考えると、真ん中の『3』これが鉄板。左右どちらを『1』として始めても、紛れもなく『3』である。しかしこの後から貼った感満載のテプラのようなシール、これが疑わしい。私は過去に様々な業を重ねてきた。無意識に人々の怒りや恨みを買ってきた可能性は大いにありうる。その場合、このテプラシールは、私を陥し入れる為の罠であり、私はまんまと騙され、車中泊を余儀なくされる。

あっぶなー。押すところだった。

そうなると一番左の『3』これが何故反転しているのかは謎であるが、人の手が加えられていないという点では最も信頼できる。その魅力はまるで原生林であり、我々人間が自然によって生かされているのだという事実。それを忘れてはならないよと語りかけるような一番左の『3』

しかし待てよ、この並び、この3434■の並び。3434ときたら■の部分は間違いなく『3』であり、これがいきなり34341となることは絶対にありえない。当然34345ともならないし、34344なんて規則性の無いことは、少なくとも日本人の仕事ではない。ということは34343という並びで間違いなく、嗚呼なんてこった、『3』がひとつ増えてしまったではないか。

 

深夜。そう深夜である。そのコバルトなブルーの真ん中で、私と『3』は静かに対峙し続けていた。

アンディウォーホールのシルクスクリーンのように、対峙し続けていた。

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