二つの外科、手術数競う 死亡事故調査委
群馬大医学部付属病院で第2外科の男性医師による肝臓の腹腔(ふくくう)鏡や開腹手術を受けた患者が相次いで死亡した問題で、学外有識者でつくる医療事故調査委員会は30日、学長に報告書を提出する。調査では、▽腹腔鏡の導入直前の2009年度時点で男性医師による開腹手術の死亡が8例相次いだ▽腹腔鏡導入直後の死亡率が高かった▽手術中止を求める部下の声があった−−などがあったにもかかわらず、いずれの段階でも組織として改善策が講じられなかった実態が明らかになった。
事故調は、病院が手術前後の手続きや患者への説明に関するルールを整備しないまま、過酷な勤務環境で手術数拡大や高難度の外科医療を推進したと指摘。「患者中心の医療とは大きく乖離(かいり)していた」と病院の組織的な問題に言及した。
報告書によると、09年度に第1、第2外科で術後早期に死亡したのは男性医師の開腹手術の患者8人だけで「この時点で手術の停止や体制改善をすべきだった」と指摘。実際には09年10月、上司の診療科長が男性医師に高難度の肝切除術を控えるよう助言した。12月に手術を再開したが、3例の死亡事例が続発し10年3月に再び手術を休むよう要請。しかし、改善策がとられないまま男性医師は手術を再開した。男性医師は「その後も紹介患者が来たため、手術を休み続けられなかった」と説明しているという。
腹腔鏡手術は10年12月に導入されたが、専門性の高い内視鏡外科の技術認定医が深く携わった手術は最初の2例だけ。最初の14例中4例が死に至るなど初期の死亡率が特に高かったが、腹腔鏡手術は年々増加した。診療科長は、部下から医師の技量を疑問視する声や「危険なので中止した方がいい」と進言を受けたが、対策を講じなかった。診療科長は12年の腹腔鏡に関する論文で、実際の死亡数より少ない数を記載していた。
事故調は、病院が、手術内容の事前検討▽死亡症例の報告・検証▽患者への説明−−などに関する院内ルールを整備せず、人員確保も不十分なまま、手術数拡大や高難度医療を推進したと指摘し、相次ぐ死亡や問題発覚の遅れを防げなかったとした。病院が当初、男性医師個人の過失を独断で認定(その後撤回)した点も問題視した。
一方、事故調の委託を受けた日本外科学会は第1、第2外科で2007年度から8年間の消化器手術(約6700例)の死亡事例64例のうち50例(第1外科14、第2外科36)について、診療記録や関係者の病院関係者の聞き取りを行い医学的に検証した。
その結果、手術に適しているかどうかを判断する「手術適応」について、適応があったのは26例にとどまり、▽条件付きで適応あり20例▽問題あり4例−−だった。条件付きの20例の中には「手術が性急」「術式の設定に慎重さが必要だった」と指摘された事例もあった。
また、肝臓手術の死亡率は、腹腔鏡の問題のあった第2外科11%(全国平均1%)、第1外科4%と高かった。37例で死亡症例検討会を開いた記録が少なく、50例の多くで診療記録や説明が不十分だった。群大病院は手術室数当たりの手術件数が全国の国立大病院の中でも多く、「第1、第2外科が連携せず、競争的関係で手術数を伸ばしていた」と指摘した。二つの外科は15年4月、「外科診療センター」に統一されている。
問題をめぐっては、14年に同一医師による肝臓の腹腔鏡手術や開腹手術を受けた18人の死亡が判明。その後、病院の調査で別の消化器の手術を受けた12人も調査対象に追加された。事故調は男性医師や遺族からヒアリングするなど調査を進め、日本外科学会は別の医師の手術を含む50人を医学的に検証した。【尾崎修二】