会って間もない人とコミュニケーションを取る時、私も営業マンなので色々な引き出しを用意している。音楽・スポーツ・ギャンブル・芸能・インターネッツ・本・エトセトラ。こういった話題を振り、なるべく沈黙を作らぬよう我々営業マンは日々お客様を退屈させぬよう努力しているのである。
と同時に、こちらから振った話題について相手がどういったリアクションや返事、表情や態度を取るのかでこちら側も何かしらその人物の情報を得ようとしている。これ嫌いなんだな、あぁ印象ではこう思ってたけどこういうの好きなんだ、え!?マジで!?意外!?などなど。
そしてどういったものが好きか?という相手からの問いにはなるべく知名度の高いものを答えて様子をみるのだ。例えば好きな作家はいるの?という問いでいきなり「町田町蔵です」とは言えない。私は必ず「東野圭吾とか好きですねぇ」と答える。理由は簡単だ。読みやすいので本当に好きだから。楽しくなけりゃ本じゃない。難しい本やマニアックな作家を読まなきゃいけない理由などない。ストレスフリーな本は私の娯楽である。
こう言うと大体の人は当たり障りのない代表作の話をするわけだが、ある一定数必ず「この作家は読まないとダメでしょ。読書してるとは言えない。」みたいな人がいる。この言葉を聞くと私はいつも耳を疑う。この人は一体何を言ってるのだろうか。ここで私の心のアラームが鳴り響く。「警戒せよ!警戒せよ!」どうやら少しデリケートなコミュニケーションを必要としているようだ。
昔から音楽についてでもいるよねこういう人。マニアックなの聴いてる方が勝ちみたいな人。だから私はいつも好きなバンドは「ブルーハーツです」と答える。まさか一般的なサラリーマンの私が、鉄アレイとかガーゼとかハナタラシとかG.I.S.MとかLIP CREAMとかDEATH SIDEとか聴いてるとは思うまい。しかしながらこういう人物はパンクとは・ハードコアとは、などと聞いてもないウンチ食う蘊蓄を垂れ流す。どっちでも良いです。私。
好きなものというのはそれぞれ個人の主観であり、他人に押し付けるものではない。会話とは、まずきっかけがあり、小さな気付きがあり、その小さな気付きを掘り起こし、共有する。そこには相手への気遣いが必須となる。円滑にコミュニケーションを取りたいのであれば、の話だけど。
しかしこういう人間は意外と扱いやすいのだ。その話に驚き、感心し、興味を持ったフリをして好きなだけ喋らせれば良い。気持ちよくベラベラと喋っている間中、私は相手の中に入る隙を伺っている。我々営業マンは、出来るだけあなたの「中」に入りたいのである。