ギリシャの残念な例はさておき、ユーロ圏の金融危機問題は、今や欧州各国首脳が向きあわなければならない課題リストの下に位置する。優先順位のトップに上がってきたのは移民と英国の欧州連合(EU)離脱問題だ。金融危機解決を主導していた国際通貨基金(IMF)は、より身近な問題である、新興国でかつ1次産品生産国の国際収支の問題に注意を向けなければならなくなった。
こうした中、28日にIMFの監視機関である独立評価機関(IEO)が出した危機におけるIMFの役割に関するリポートは注目に値する。この調査では、IMFの政策決定過程での政治的な干渉を示す確固とした事実は見つからなかった。それでも、同リポートは、IMFが信頼維持には、そのガバナンスに対する欧州の桁外れの影響力を弱めるべきとの主張を強めるものだ。
同リポートの結論のいくつかは、ラガルド専務理事が率いるIMFマネジメントと、出資国の代表から成る理事会が既に受け入れている。IMFはEUの指導部の論拠に耳を傾けた結果、通貨同盟内で国際収支問題が発生することをつかめなかった。また、経済への信頼回復のためには、しばしば民間と公共両部門の債務を迅速かつ整然と償却することがしばしば必要になるという教訓も学んだはずだが、それも無視した。
また、IMFがEUと欧州中央銀行(ECB)とともに、「トロイカ体制」の一員であることも、IMFの政策がしばしばこの体制に縛られることにつながった。
ラガルド氏はIEOリポートについて、筆者らはIMFのスタッフやマネジメントが不当に政治的圧力を受けていることを示す明確な証拠はみつけなかったと述べた。だが、そうした圧力の事実が記録に残されることはめったにない。このリポートが気掛かりにも明記しているように、IMFの主要な政策決定が通常のチャネルの外で行われたようで、決定の過程についての適切な記録が残されていないというものだ。
1つの考えに支配された組織においては、知識や制度にとらわれる中で、政治的影響力が行使されることが多い。出資国による直接の政治介入があろうとなかろうと、IMFは介入の可能性を最小限に抑える努力をしなければならない。
金融危機がユーロ圏に拡大する中、たとえば、ドミニク・ストロスカーン氏が専務理事であることは明らかに利益相反だった。元フランス財務相の同氏が同国大統領選への出馬に意欲的だったはよく知られていたが、それが特に欧州の債権者に対する債務の減免についてのIMFの判断に政治的な影響を与えていたのではないかという疑念が生じた。IMFはこの問題に関して、ラガルド氏がストロスカーン氏の後任の専務理事に就任した後に大きく方向転換した。ラガルド氏はIMFエコノミストの意見をより尊重したのである。
IMFがユーロ圏の危機から、潜在成長力を下回る国における財政引き締めの影響などの教訓を学んだことは間違いない。だが、欧州各国政府が最近のIMFの改革の後もなお桁外れの議決権を保持していることは気掛かりだ。また、EUは、伝統的にIMF専務理事を事実上任命する企てを演じてきたが、それを放棄したことをまだ態度で示していない。
IMFが参加して行ったアイルランドやポルトガル、キプロスなどの救済の大半はほどほどの成功をおさめたが、ユーロ圏の危機や、特にギリシャ問題がIMFの組織的弱点を露わにしたことは間違いない。こうした弱点は断片的に是正されているかもしれない。しかし、IMFでは依然、(欧州という)世界の一部からの影響力が圧倒的であり、そうした機関をそもそも、私情を挟まず公平であるとみなせるのかという重大な問題は残されたままだ。
(2016年7月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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