クーデター未遂事件を受け、数万人に及ぶ兵士や公務員、教員の追放に動いたトルコのエルドアン大統領は、粛清の矛先を思わぬ方向に転じた。株式アナリストだ。
トルコ2位の大手銀行傘下の証券会社、AKインベストメントの調査部長メルト・ウルケル氏は、同国の資本市場評議会によりライセンスを剥奪された。7月15日のクーデター未遂事件後にまとめた投資家向けの調査リポートが原因だ。
リポートはトルコの通貨リラや株価、経済指標に関する標準的な予測が中心だったが、クーデター未遂事件の政治的影響と首謀者らの動機に関する分析も加えられていた。
資本市場評議会はウルケル氏の処罰について、同氏が職責を全うしていなかったという点に加え、大統領に対する侮辱を禁じる法律の違反も理由に挙げた。ウルケル氏は取材の連絡がつかなかった。
他の証券会社も、投資家向け調査リポートの提出を求められたことを認めている。当局者の説明によると、トルコの市場の信頼性を損ねていないかどうかを見極めるためだという。
「私の仕事は経済状況に対する自分の考え方を人々に伝えることだが、今のありさまではもう自分の考えを話せない」と、ある大手銀行のアナリストは匿名を条件に語った。
「この絶対的な抑圧効果は今のトルコに必要なものとは正反対だ」
フィナンシャル・タイムズ紙が接触した他の8人の市場アナリストは、会社から話さないよう命じられているか、自分の将来を考えて口をつぐむかのどちらかだった。
株式アナリストが標的にされたのは、外国資本に大きく依存するトルコ経済の弱さを政府が強く意識していることの表れかもしれない。エルドアン大統領と同氏が任用した政府高官らは、クーデター未遂事件後にトルコ国債の格付けを引き下げた米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)を繰り返し非難した。