習近平氏が2012年末に中国共産党の頂点に上り詰めたとき、国内でも国外でも、従来の路線を踏襲するという見方が大勢だった。合意重視のリーダーシップ、優秀な経済運営、ゆっくりとした政治の自由化だ。だが、習氏はどの期待にも背いた。
国家主席に就任するや、習氏は直ちに急進的な中央集権化を追求した。それを支えた反腐敗運動は、政敵や新体制に異議を唱える人々を絡め取った。習氏の下、この数十年で最も抑圧的と人権団体が見なす言論弾圧が行われ、市民社会の芽生えは根こそぎ摘み取られた。
腐敗や反体制派と戦う決然たる姿勢と裏腹に、習氏は経済改革には驚くほど消極的だ。中国政府は13年末、成長が減速して経済モデルがますます時代遅れになるなか、問題点を精査して340項目の改革計画を打ち出した。しかし残念ながら、その多くはまだ始まってもおらず、一部に矛盾する改革があったことも判明している。
習体制の発足初期、西側の政財界はおおむね、習氏の権力固めを経済改革に必要な前段階として受け入れる姿勢だった。しかし、昨年の拙劣な株価暴落対策と通貨切り下げが引き起こした混乱、そして改革政策の大部分が後退しているように見えることで、投資家は幻滅を感じている。
今の中国で最も重要な問題は、習氏が築き上げた権力で何をするつもりなのかだ。すでに習政権は、数十年にわたって高成長を支えた投資とインフラ建設も、もはや成長維持には不十分となったことを認めている。これまで数千年にわたり中国を治めてきた集権的な専制支配は、一貫して投資とインフラ建設に秀でていた。万里の長城も大運河も、近年では上海や北京、深圳の光り輝く超高層ビル群も、そうして築き上げられた。
■目指す成長、生産目標ありきで実現できない
しかしながら、習氏が今、求めていると語るのはサービス業と消費を中心とする環境に優しい創造的な成長であり、それは計画経済の生産目標により力ずくで実現することはできない。中国が必要とする現代型の創造的な経済には、もろさをはらむナショナリズムではなく、市民的自由、常識に挑む自由、強力な法の支配、知的財産権の尊重、積極的な市民参加のすべてが求められる。
習氏と共産党にとっては、いずれもある程度の権力と統制の放棄を要する。ソビエト連邦の崩壊を詳しく研究し、致命的な誤りは政治改革と「西側」の考え方が国内に染み込むのを政府が許したことだと結論づけた指導者にとって、これは魅力的には映らないだろう。
多くの中国人にとって、民主主義や言論の自由、立憲政治などの「普遍的価値」を拒絶する習氏の姿勢は、英国の欧州連合(EU)離脱決定から米国でのドナルド・トランプ氏の台頭に至るまで、他国で民主主義が招いた混乱によって正しさが証明されている。しかし、共産党は今、中国の経済と長期的な政治的安定のために、司法の独立と政治権力の「抑制と均衡」を強化する基礎づくりとなる漸進的な改革プロセスに踏み出すべきだ。習氏は、忌まわしい民主主義という言葉を避け、そのような改革を「中華民族の偉大なる復興」の一環と呼ぶことができる。それは習氏の最大の遺産になるはずだ。
(2016年7月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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