鳥の巣

悪ドラのヘリマルです。一年ほど坊主にしていた。ひさびさにパーマと白髪染めをした。おばちゃんパーマのゲイみたいになった。おばちゃんにもゲイにも悪意はないがそうとしか表現しようがない。しいて好意的に見れば鳥の巣のようでもある。床屋は客の希望する仕上がりや、髪質や、客がふだん髪をどう扱っているかの情報をさりげなく聞き出そうとする。世間話を装われると意図が不明瞭になり正確な情報を伝えられない。意思疎通が成立せず互いに疲れる。これを行うためにこの情報がほしい、と直截に訊いてもらえないものか。丸一日かかって疲れたので帰宅したら眠くなった。目が覚めたら日付が変わる直前だった。せっかく日勤に体をあわせたのにまた逆転した。

ウェブライター向けの啓発セミナーを行うNPOがある。作家向けであるかのように謳われていたので去年よくわからずに加入した。会員第一号だ。退会を申し出るのも面倒で放置している。その団体が月にいちど同人誌を出していた。校正による品質向上が売りだった。文章術の著作があるライターが担当しているという。鵜呑みにして『悪魔とドライヴ』に利用しようとした。実際には使いものにならなかったので、自分でひとを集めて刊行準備委員会をつくった。結局その雑誌が重視したのは品質ではなかった。アマチュア同人を対象とするソーシャルメディア的な交流だった。作家が小説を書く手段として主体的に利用しようとするのは、和を乱す迷惑行為にほかならなかった。謳い文句を信じていた当時は怒られてショックだった。いまは素直にもうしわけないことをしたと反省している。

NPOのめざすところはウェブライターの地位向上であり、雑誌が担うのはアマチュア同人の交流だった。ウェブライターよりアマチュア同人のほうが数が多い。作家向けであるかのように装ったのは収益を考えた戦略だったのだろう。品質云々の宣伝でアマチュアをセミナーに集め、収益を向上させてウェブライターの啓発に還元しようとしたのだ。そのアマチュア同人誌が休刊する旨のメールが届いた。このところ明らかに迷走していた。ソーシャルメディア的な交流を意図しながら表向きは品質向上を謳うのだから、両者が相容れない以上、そこでも乖離と混乱が生じる。当てにした収益も、アマチュア同人は金にならないどころか、労力と時間をかければかけるほど赤字になった。なので切り棄てることに決めたのだろう。アマチュアを集めずとも啓発単体でビジネスとして成立する見通しも立っていた。大学やバイト先の後輩にチケットを売りつけずとも公演が成立するようになった劇団みたいに。利用者は「巣立った雛」などと貶められるリスクを負った。

知らぬ間にみうらじゅん夫人になっていた

くだんのNPO主催者をおれはライターとしても活動家としても尊敬している。アマチュアの文集を二年以上、毎月欠かさず発行したのは人跡未踏の偉業だ。もっと直截に「ウェブライターの地位向上を意図した啓発セミナー事業です」「アマチュアの交流を活性化させることで収益につなげます」と宣言されていたらこちらも誤解せず、迷惑かけずに済んだのに。しかしそれでは宣伝にならないのだろう。世間的な通りのよさ、わかりやすさのためにソーシャルな体裁を気にする事情もわかる。またやりたい雑誌が見えたらやればいい。フェティシズム的な愛情や執着は感じられなかったので、たぶん彼がやりたいのは雑誌ではないのだろう。なんであれ陰ながら応援する。陰ながら、というのは会費を払う経済的余裕がもうないからだ。床屋に使った。その髪も失敗したのでそのうち切る。じゃあな。おやすみ全世界!