7月23日土曜日の夜、シュトゥットガルトの隣町ルードヴィクスブルクで開かれたコンサートに行った。夏の音楽祭の最終日で、前半はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。ソロ奏者は樫本大進という日本人で、演奏のあと、しばらく拍手が鳴りやまない素晴らしい演奏だった。
ところが、後半のシベリウスの一曲目が終わると劇場支配人が舞台に現れ、「技術上の不都合が発生したので、全員すみやかに会場の外へ出てください」と言った。
この時の情景はおそらく一生忘れられない。ホールはほぼ満席。1200人はいたと思われる聴衆が全員すっくと立ち上がり、喋りもせず、走りもせず、ただ静かにのろのろと出口に向かって移動した。気味が悪いほどの静寂だった。ホールを出しなに振り返ると、空っぽになった舞台には、すでに警官が何人も立っていた。
なぜ、たいした誘導もなしに、このような模範的な避難が成り立ったかというと、それぞれの聴衆の心の中に「落ち着け!」という自制心が強く働いていたからだと思われる。
というのも、実は、前日22日の夕方6時ごろ、ミュンヘンの巨大ショッピングセンターで何者かが銃を乱射、9人を射殺し、35人を負傷させるという事件があった。つまりミュンヘンは、つい20時間ほど前まで厳戒態勢となっていたわけで、その緊張の余韻が、この夜、聴衆の心にまだ生々しく残っていたのである。
一連の事件に残された疑問点
ドイツにおけるテロ・シリーズの始まりは、このミュンヘン乱射事件の4日前、18日だった。バイエルン州のヴュルツブルクを走っていた近距離電車の中で、斧とナイフを持った17歳の青年が、香港からの旅行者の家族に襲いかかった。逃走した犯人(正確には容疑者)は、ちょうど現場にいたという特殊部隊の警官に撃たれ、今、病院にいる。
犯人はアフガニスタンからの難民だ。その後、彼がISのメンバーであるとして、犯行を予告したビデオがネット上で見つかり、ドイツ政府もそのビデオを本物だと認めた。犯人の部屋からは、手作りのISの旗なども見つかったという。
犯人は去年、オーストリア経由でドイツのバイエルン州に入った大量の難民のうちの一人だ(ドイツには去年一年で110万人の難民が入った)。里親となったドイツ人家族と共に住み、パン屋で見習いとして働くことも決まっていた。つまり、他の多くの難民とは違い、前途が開けていた。彼がイスラムの過激な思想を持っているとは誰も思っていなかったという。
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