タクシーの初乗りが400円台に――。そんな新しい料金体系が、来年にも東京都心部などでお目見えしそうだ。

 国土交通省が業界の申請を受けて運賃改定の手続きを進めており、来月から期間を限って都内4カ所で試験導入される。

 現在は23区内などでは「2キロまで730円」から加算されていくが、ある大手は「1キロ強で410円」を申請した。約2キロで730円になるよう刻みを決めており、単純な値下げではないが、高齢者や外国人ら観光客の利用や、天候が悪い日の「ちょい乗り」が増えそうだ。

 ただ、業界には「売り上げが減るのでは」と心配する声が少なくない。そもそも最初に改定を促したのは国交省のようで、「民間発」とは言いがたい。

 それでも、低迷が続くタクシー業界にとっては改革の時であることは間違いない。新たな需要を掘り起こし、顧客に喜ばれる努力を広げてほしい。

 タクシーの輸送人数はこの10年で2割以上も落ち込んだ。人口減や景気の影響があったとはいえ、鉄道やバス、航空機と比べても「一人負け」の状態だ。

 業績の悪化と運転手の賃金低下をどう食い止めるか。規制強化を求めて競争を和らげようとするばかりでは、国民にますますそっぽを向かれてしまう。

 業界の転機は、2000年代初めに小泉内閣が進めた規制緩和だった。車両や運転手が増えて競争が激化したが、乗客減が止まらず、限られたパイを奪い合う構図に陥った。

 政府はその後、規制の強化へと転じ、3年前には議員立法でタクシー関連の法律が改正された。一定の要件を満たす地域では国交省が運賃の上・下限を決め、一部では新規参入や増車を禁じ、減車も命じられる。

 そんな強い規制を与野党に求めたのはタクシー業界だった。だが、格安業者が裁判に訴え、運賃の幅が狭すぎるとして政府側が負ける判断が相次いでいる。行き過ぎた規制緩和は正すべきだが、過剰な規制強化も社会に受け入れられないことを自覚するべきだろう。

 利用客を引きつける方法は、料金の安さだけではない。

 介護タクシーや妊婦を運ぶマタニティータクシーは一般的になった。相乗りをしやすくしたり、一定額で乗り放題にしたりと、高齢者の買い物や通院、観光客の周遊などを意識した取り組みが始まっている。

 規制強化という「守り」よりも、創意工夫による市場開拓という「攻め」を強める。そんな業界の姿勢が求められている。