戦時中、日本軍将兵たちの性の相手を強いられた元慰安婦らの支援にあたる韓国の財団がきのう、立ち上がった。

 昨年末の日韓両政府による合意を受けた設立で、元慰安婦らへの具体的な措置にあたる。

 政府同士が長年の懸案に終止符を打つべく合意したからといって、被害者らの負った傷がすぐに癒やされるはずもない。

 元慰安婦らが少しでも心穏やかな余生を送れるよう日韓双方が今後も不断の努力を続ける必要がある。問題解決への取り組みは緒に就いたにすぎない。

 元慰安婦らの考えは多様だ。彼女らの声に丁寧に耳を傾け、できることから着実に実行に移していくしかあるまい。

 財団幹部が元慰安婦ら一人ひとりを訪ねて意見を聞いて回ったところ、相当数が財団を支持する意向を示したという。

 その一方で、政治合意は日本の法的責任や国家賠償を明確に記していないとして、一部の元慰安婦や支援団体が反発し、白紙撤回を求めている。

 責任をめぐる問題は、四半世紀の間、両国が決着点を見いだせなかった原因の一つである。だが合意は日本軍の関与の下で起きた問題だとし、安倍首相が謝罪と反省の意を表明するなど政府としての責任を認めた。

 いま大切なのは、この合意を土台にして、元慰安婦の救済を具体的にどう進めていくかだろう。その目標に向かって、韓国の支援団体も財団の中で意見を述べて、ともに力を合わせてもらいたい。

 日本政府は来月初めの局長級会談などを経て、10億円を財団に送る方針だ。合意に基づく行動で、当然の判断といえる。

 自民党内には、ソウルの日本大使館前にある少女像の移転の確約を迫る声がある。だが固執すれば、合意の履行をむずかしくする。むしろ移転できるような環境の整備を急ぐべきだ。

 また、韓国では合意内容を安倍首相が公の場で語らないことも不信を招いている。

 首相はことし1月の国会で、合意の文言を繰り返して発言することは、「最終的、不可逆的に終わったことにならない」として、言及を拒んだ。これでは首相の真意に疑念が投げかけられるのもやむをえまい。

 後戻りしない最終的な解決のためには、合意にあるように、日韓両政府が協力して事業にあたる必要がある。

 互いに一方的な解釈を強調することなく、合意の精神を最大限尊重する。そのことが、問題解決への早道であることをいま一度、肝に銘じるべきである。