2016/07/28 (Thu) 00:19:45
零斗は晴香とのこの恋を終わらせたくなくて
ある晩、こっそりと駆け落ちをした。
11歳、まだ子供だと思われるかもしれないが
彼らは本気だった。
「零斗くん、私となんかで後悔してない?」
「晴香ちゃんといっしょに居られるなら
後悔なんてするもんか・・・・。」
「うれしいわ。」
「晴香ちゃんこそ大丈夫なの?」
「こんなことになったのって運命だと私は思うの。
今は自分の気持ちに正直でいたいの。」
「ぼくは晴香ちゃんをこれからずっと大切にするよ。」
ぼくは彼女のうれし涙にあふれた瞳を見つめた後
彼女の手をしっかりと握り締めて
手をつないで停車中の特急列車に乗り込んだ。
そして指定席に並んで座った後もその手を放すことはなかった。
ただ列車の出発まではまだ3分もあった。
お互いの家族が連れ戻しに来るのではないかという
不安が頭をよぎった。
ぼくはシートを少しずらして、改札口の方に目をやった。
誰も追いかけて来る様子はなかった。
発車ベルが数秒間鳴り響いた後、少しして列車は静かに出発した。
二人は外の夜景がゆっくり流れていくのを確認した後
お互いの顔を見つめ合って出発を喜んだ。
零斗は晴香の可愛らしい顔を見つめて、彼女がさっき言ったように
これは運命だと思った。
ただ3か月前、この現状は想像もつかなかったのも事実である。
「うちのママよ。とっても美人でしょ。」
「まあ七菜香ったら、いやだわ」
「初めまして・・・ぼ・ぼく岡田零斗です。」
「零斗くん、娘のためにようこそ我が家へ。」
零斗は意識が朦朧となっていた。
もう七菜香の声も存在もどこか遠いに行ってしまったように感じられた。
まして七菜香の誕生会のことなど、どうでもよくなっていた。
零斗は生まれて初めて本物の恋をしたことを自覚した。
そして彼女こそ運命の人、坂本晴香・・・ただし36歳(既婚)であった。