英国のメイ政権の閣僚たちは、欧州連合(EU)離脱後の世界で、英国が新たに独立した道を構築できると証明するのに躍起だ。彼らは、英国が新たな貿易関係を構築する機会について世界中で宣伝して回っている。
長いことEU懐疑派で、新たに創設された国際貿易相に就任したフォックス氏は、英国がEU離脱手続きを完了した時点で締結できる2国間貿易協定を探して世界中を飛び回っている。同氏は、オーストラリアや米国などの国々が将来的な合意に前向きな姿勢だと、成功のいくつかを主張した。
しかし、漠然とした関心を超えて進展することは、英国政府の姿勢の矛盾や不確実さをたえず露呈しがちだ。今週、英国がEUの関税同盟にとどまるのかという問題を巡って、フォックス氏と英国政府の間で対立が表面化した。こうした緊張は、英国がその他の国々との貿易協定の締結を目指す前に、英国と欧州との関係を取り巻く基本的な問題に対処すべきだということを示唆している。
EUの関税同盟は、域外にある他国からの輸入品に対して共通した対外関税率を課すもので、それへの加盟は単一市場への加盟とは別問題だ。例えば、ノルウェーは単一市場の加盟国だが、関税同盟には加盟していない。それにより、ノルウェーは、EUで許された関税よりも高い関税を(輸入品に)課して、自国の一部の生産者を保護している。もしノルウェーが望めば、第三国の政府と貿易協定を締結し、より低い関税で輸入することもできる。
とはいえ、ノルウェーのような国々がEU市場へ入り込む裏口となるのを防ぐため、ノルウェー政府は輸出に関して「原産地規制」という複雑な規制を適用する義務を負っている。これは、ノルウェー産ではなく、例えば中国などから輸入したモノをEUに再輸出しないよう、間違いなくノルウェー産であることを確認するためにある。ノルウェーはこれに加え、EU参加国が免除されている関税の事務手続きを順守する必要がある。つまり、ノルウェーの企業がEU域内にモノを売る場合、相当な費用がかかることになる。
輸出品が原油など主に1次産品が占めるノルウェーにとっては、これはそう大した苦労ではないかもしれない。しかし、輸出品の中に、一般的にもっと複雑で、輸入された部品を使ったモノが含まれる英国には、深刻な困難になり得る。その一方、もし英国がEUの関税同盟にとどまり、EUと同様の関税率を強制的に課せられた場合、英国は実質的にその他のどんな国ともモノの貿易で意味のある貿易協定を締結できなくなる。
■EUとの協議が先決
英国が、非EU加盟国と2国間貿易協定を巡って真剣な交渉に入る前に、関税同盟に関する問題を解決しなければならないというフォックス氏の主張はきわめてもっともだ。しかし、それにはまず、メイ政権がEU離脱で英国がどれほどの痛手を覚悟するのか決める必要がある。その中には、欧州経済地域(EEA)、従って単一市場の一員でありたいのかという問題も高い確率で含まれるだろう。単一市場加盟は、英国を別の一連の規制に従わせることになる。そしてその後、英国は自らの要望をかなえるために、EUやその加盟国と交渉しなければならなくなる。この手続きには数カ月ではなく数年かかるだろう。
フォックス氏が国際貿易相に任命されたのは、離脱派を政権の要職に据えることが政治的に不可避だったことに負う部分が大きい。メイ氏はEU離脱政策に対して、離脱派にも連帯責任を負わせるという巧みな手を使った。しかし、どんなに機転の利いた戦略でも、EUとの離婚条件や将来の英国と欧州間の関係に関する難しい問題を覆い隠すことはできない。政策が固まる前に非EU加盟国との貿易協定を推し進めれば、フォックス氏の熱意が本末転倒になってしまう危険がある。
(2016年7月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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