キャンプ初心者の方がシュラフ選びで失敗しないために僕の苦い経験を記しておこう。この体験談が少しでも参考になれば幸いです。
初めての登山は高校一年生の時に行った八ヶ岳だった。ゴールデンウイークの3日間、長野県の某駅で降りバスで一時間。緑映える木々の中をワンダーフォーゲル部員5名と顧問2名で軽快に登った。放課後の部活動で走り込みや階段上り下りを徹底した成果だ。
しかし、山はそう甘くなかった。2時間ほど登ったところで山の斜面に残雪が現れたのだ。すぐにアイゼン(登山靴につける鉄の爪)をつけるよう顧問が言った。アイゼンの爪先を残雪に突き立て登る。200mほど登ったところでカチンと鋭い音がした。
残雪が溶けて凍ったアイスバーンにぶちあたったのだ。爪先をガシガシと突き立てるが、氷が固すぎてなかなか登ることができない。何度も滑っては登り、時にはピッケルを氷に刺し、なんとか登りきった。命からがらなんとかテント場に着いた。
4人用のテントでコッヘルとガスストーブを使いインスタントラーメンに餅を入れた夕食をとる。外は吹雪いてきたがランタンをつけている間は暖かく、部員とトランプをして過ごした。21時を過ぎると顧問がきて寝るように言われた。明日は8時間歩くとのこと。
明かりを消して寝袋に潜り込む。しんしんと、冷たさがマットを通して体に伝わる。雪山なんだから寒いのは当然だよな、と思いながら目をつぶるが寒すぎて体が震えてしかたない。他の3人はすーすーと気持ちよさそうな寝息を立てている。すーすーすーすー。
なぜ、僕だけ眠れないんだろ。こんなに寒いのに皆よく眠れるなと感心していた。1時間たっても2時間たっても眠れない。明日は4時起きというのにとうとう12時を過ぎてしまった。結局、僕は一睡もできずに翌日の山行をした。眠い!眠くてたまらない。
なんとか8時間の山行を終え、テント場についた。今日のテント場には雪がない。寝不足と疲れで夕食を済ますと、寝袋に入るとすとんと眠りに落ちた。しかし、夜中にまた寒さで起きた。周りの寝息が恨めしい。2泊3日の山行で6時間も寝られなかった。
家に帰り、僕は父に聞いた。なぜなら、寝袋は父がくれたものだったからだ。入部してすぐに登山洋品店に行く僕にこう言ったのだ。
「寝袋は高い。俺のをやるから大丈夫だ」
父に、眠れなかった山行について、話した。
阪神巨人戦をビール片手に見ていた父は僕に言った。
「悪い、あれ、バーゲン品だったわ」
父さん、雪山で眠れないってマジきついよ?しゃれにならないよ。僕はザックから寝袋を取り出してタグを見た。
『レジャー用(登山用の保証無)』
その後、英語の授業で『世界最悪の旅』を読んでアムンゼンの気持ちがよく分かった。凍った寝袋なんて、確かに世界最悪だ。
【まとめ】
寝袋・シュラフはシーズンにあったものを使いましょう。(1160字)