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2016年07月27日

東大 稲田修一 氏が語る、アマゾンが製品開発よりも先にプレスリリースを書く理由

企業がITを活用する際に、検討するべきポイントが変化してきている。「従来は価値が明らかな案件をどう実現するかという“How”が重要だったが、現在はそもそも新しい価値が何なのかという“What”を考えることが非常に重要になっている」と指摘するのは、情報未来創研 代表で東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授の稲田修一氏だ。稲田氏は、アマゾンやGMS、ソラコムなどの事例をもとに、これからの「IT戦略」立案のヒントを語った。

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東京大学
先端科学技術研究センター 特任教授
稲田 修一 氏



「新しい価値」が何かを発見することが重要

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 IT戦略を策定する際の視野が非常に広がっている。まずは「新しい価値」が何かを発見することが重要だ。

 「ガートナー ソーシング&戦略的ベンダー・リレーションシップサミット2016」で登壇した稲田氏は、非常に面白い事例として、「車両の稼働管理をすることで、与信機能を代替できる」という価値を発見した日本企業を取り上げた。2013年に設立された「Global Mobility Service(以下、GMS)」だ。

 同社は「モビリティサービスを通じて、多くの人を幸せにする」というビジョンに掲げるベンチャー企業で、フィリピンで低所得者向けに車両を提供する事業を始めた。

「フィリピンの低所得者層の人たちに自動車を提供し、タクシー業を営んでもらおうというものだ。しかし、この国には2つの問題があった」(稲田氏)

 まず低所得者層の人たちは、そもそも車両を買うことができない。こうした人たちに、どうすれば車両を提供することができるのか。またフィリピンでは自動車の排気ガスが酷く、公害問題を何とかしなければならないという課題もあった。

「そこでGMSは、公害対策として電動の三輪自動車を採用し、低所得者層の人たちには、車両をローンで提供することにした。この車両はインターネットに繋がり、もしローンの支払いが滞った場合には、ネット経由で車両の稼働を停止し、かつ位置情報を元に車両を回収しにいくことができる。GMSはこうしたスキームを構築した」

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(クリックで拡大)

モノの価値は稼働データが創出する

(出典:稲田修一氏講演資料)


 この仕組みによって、車両を借りた人が、きちんと働いているかどうか、さらにはお金を返せるかどうかが分かるようになる。

「GMSは提供した車両の稼働管理を行うことで、与信管理と同じことを実現した。ITの活用が与信機能を代替した、という非常に興味深い事例だ」

自社の強みが発揮できる領域にのみ注力する

 一方、フィリピンでこうした事業を始めるためには、同国の中央政府も巻き込んで、さまざまなサポートをしてもらわなければならない。また電気自動車を利用するので、地元最大の配電企業の支援も必要だ。さらには料金回収のためのチャネル、通信ネットワーク、車両本体、保険、情報システムなど、各分野で強みを持つ企業の協力が必要不可欠となる。

「GMSは、これらをすべてアウトソーシングする形で今回のスキームを実現した。GMSが担当したのは、ビジネス全体のデザインやIT活用による車両管理、市場開発や総合調整など、自社の強みが発揮できる領域のみ。これは非常に賢いやり方だ」

 ベンチャー企業でも、色々な人たちを巻き込むことで大きなプロジェクトを実行することができる。自社に足りない部分は、アライアンスやパートナー戦略でアウトソースすればいい。

「しかもGMSは、このビジネスのプロトタイプをわずか15人で設計した。以降のプロセスは車両の製造も含めて、すべてアウトソーシングすることができる。リスクの高い事業は、少人数の専門集団で立ち上げて、残りはアウトソーシングしてしまうというGMSのやり方は、私にとっても目から鱗だった」

 また今回の車両提供事業を開始する以前、実はGMSはフィリピンに電気自動車を売りに行って、物の見事に失敗した経験があるという。

「しかし同社はその際に、きちんと人脈を築いていた。今回は新しいビジネスモデルを考え、その人脈を活かし、地元の人たちに喜ばれるような仕組みを作って、再度フィリピンの市場に参入した。今はアイデアと実行力と人脈があれば、リソースは色々なところから集めて、新しいビジネスを立ち上げることができる時代になっていると言える」

【次ページ】アマゾンでは製品開発よりも先にプレスリリースを書く

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