容疑者の捜査状況は?
事件が起きたのは、26日の午前2時すぎでした。相模原市緑区の知的障害者の入所施設「津久井やまゆり園」に刃物を持った男が侵入。入所者などが次々に刺され、19歳から70歳までの入所者の男女19人が死亡し、職員2人を含む26人が重軽傷を負いました。施設の近くに住む、元職員の植松聖容疑者(26)が午前3時すぎ、「私がやりました」と津久井警察署に出頭し逮捕されました。
警察のこれまでの調べで、計画的に事件を起こした状況が浮かび上がっています。逮捕された時、植松容疑者は包丁やナイフ合わせて3本を持っていましたが、施設内から2本の刃物が見つかり警察は5本の刃物で入所者を襲ったとみています。
また、施設の職員の話などから、当時、施設にいた職員2人を結束バンドで縛り、室内の手すりにくくりつけて身動きできなくさせていたことが警察への取材で分かりました。
亡くなった人のうち「区分6」と言われる障害が最も重い人が15人で、残る4人がその次に重い障害の「区分5」だったということです。調べに対し、植松容疑者は、障害者の人たちを冒とくするような内容の供述をしているということで、警察は重い障害者を狙ったとみて調べています。
容疑者はどんな人物なのか?
植松容疑者は、現場の「津久井やまゆり園」から東に500メートルほど離れた一戸建ての住宅にひとりで暮らしていたということです。神奈川県によりますと大学卒業後は運輸関係の仕事などをしていましたが、平成24年12月から「津久井やまゆり園」で非常勤職員として勤務を始め、平成25年4月から常勤職員になったということです。
植松容疑者の自宅の近所に住む女性は「あいさつもよくするし、明るい若者という印象だった」と話しています。
植松容疑者は教員免許を取るために、5年前には相模原市内の小学校を教育実習のため訪れていました。小学生当時、植松容疑者から指導を受けたという男子高校生は「ニュースを聞いてまさかあの人がという気持ちです。真面目で、誠実に温かく接してくれる先生でした」と驚いた様子で話していました。
しかし、植松容疑者は、最近は、危険な言動が目立つようになっていました。ことし2月14日には東京・千代田区にある衆議院議長の公邸を訪れ、障害者の人たちを冒とくするような内容の手紙を警備にあたっていた警察官に渡していたということです。
5日後の2月19日には、警察官の立ち会いのもとで、施設の園長が本人と面接し、「大変危険な考えだ」と伝えたものの、植松容疑者は激しく主張し「ならば辞める」と言ってその場で、本人から退職願が出されたということです。
植松容疑者の心情にどんな変化が生じて、事件が起きたのか。警察は、今後、本格的な取り調べを始め、解明を進める方針です。
危険な言動は把握 なぜ防げなかった?
こうした植松容疑者の危険な言動について、関係機関も把握していましたが、なぜ凄惨(せいさん)な事件を未然に防げなかったのでしょうか。
植松容疑者が施設の園長と面談して、退職した同じ日、相模原市は、強制的に入院させる「措置入院」の対応を取りました。
措置入院とは、自分や他人を傷つける危険性がある人をその本人の意思に関わらず強制的に入院させるもので、診断するのは法律で指定された2人の精神保健指定医です。退院するには、精神保健指定医が定期的に診断し、症状が収まったと判定したうえで、病院が自治体に対して「措置入院者の症状消退届」を提出することが必要です。入院期間には定めはなく、この症状消退届をもとに都道府県知事、もしくは政令指定都市の市長が退院できると判断すれば退院となります。
市は指定された医師1人が入院の必要があると診断したため、緊急の措置入院の対応をとったということです。翌日の20日には入院先の病院で、植松容疑者の尿から大麻の陽性反応が出たということで、2日後に別の2人の医師が再度診断したところ「大麻精神病」や「妄想性障害」などと診断され、入院を継続させたということです。
入院から12日後の3月2日、植松容疑者に症状がなくなったことや、本人から反省のことばが聞かれたことなどから医師が「他人を傷つけるおそれがなくなった」と診断して退院させたということです。
退院後、市は出先機関である津久井保健福祉課や植松容疑者の家族らに退院したことを知らせていたということですが、その後、本人や家族などに状況の確認はしていなかったということです。市の担当者は「重大な結果を招いているので行政の対応として問題を指摘されるのは仕方がないと思う。その点は今後どうすべきか検証していきたい」と話しています。
一方、警察は、退院の2日後の3月4日に、改めて植松容疑者の父親に連絡をとり、帰宅しているか確認するとともに、行動に変化があった場合には連絡するよう求めたということです。また、施設側に対して防犯カメラを増設するよう求め、ことし4月には16台が増設されました。警察は、その後も行動に変化がないか確認していたということです。
神奈川県警察本部は「それぞれの段階で、必要な措置をとっていた。ただ結果として19人が亡くなり、多数のけが人が出た事件が起き今後、捜査の過程で事実関係について必要な確認を行っていきたい」としています。
「法制度に不備は 検証必要」
警察の捜査に詳しい常磐大学の元学長の諸澤英道さんは「措置入院後の対応も決まっていないことが多く、家族が面倒をみるといっても、犯罪の傾向が顕著な場合には負担が大きすぎるので、警察や行政が積極的に関わっていく必要がある。事件を未然に防げそうなポイントは多く、法制度に不備がなかったか検証が必要だ」と指摘しています。
事件が起きた施設の前には献花台が設けられ、地元の人や障害のある人が訪れ静かに手を合わせていました。
弱い立場の人が狙われた今回の事件。知的障害のある人と家族で作る団体は、「どのような障害があっても懸命に生きています」などとする緊急の声明を出しました。
事件はなぜ起きたのか、なぜ防げなかったのか。警察の捜査や関係機関の検証が続きます。