安倍首相が時給1千円の目標を掲げた最低賃金について、厚生労働省の審議会が今年度の引き上げ額の目安をまとめた。

 全国平均では今の時給798円から3%、24円の引き上げで、実施されれば822円になる。比較できる2002年度以降では最大の引き上げ幅で、初めて800円を超える。

 この目安をもとに、各都道府県の審議会が10月ごろまでに具体的な額を決める。目安の着実な実現を目指してほしい。

 政権は「1億総活躍プラン」で、時給1千円に向けて最低賃金を毎年3%程度ずつ引き上げることをうたった。その1年目の今年度は約束を何とか果たしたかっこうだ。

 だが、過去最大の引き上げとはいえ、今のペースでは時給1千円を超えるのにあと7年もかかる。日本の最低賃金は国際的にも見劣りする水準にあることを忘れてはならない。

 大事なのは、この引き上げを1年限りで終わらせることなく続けていくことだ。そのためには、企業が賃金をしっかり支払える環境を整えていくことが不可欠である。

 大企業は利益をため込んでいる例も多く、もっと賃金に振り向けてほしい。問題は経営環境が厳しい中小・零細企業だ。

 政府が近くまとめる経済対策では、賃上げをした事業者への補助金の拡充も検討されているようだが、経営体力をもっと強めなければ本質的な解決にはならない。

 付加価値の高いサービスやものづくりを後押しし、生産性を向上させる。大企業と下請け企業の取引条件を改善する。長年の懸案であるこれらの課題に実効性のある対策を打ち出せないままでは、中小・零細企業は先細りになるばかりだ。

 人手不足が深刻な介護や保育の現場では賃金の低さが問題になっているが、待遇を改善するにはより多くの税金や保険料を投入することが必要だろう。

 最低賃金の引き上げの目安は地域によって四つのランクに分かれている。もっとも高い東京は25円の引き上げで時給が932円になる計算だが、最も低いランクの沖縄などでは21円のアップで714円にとどまる。こうした地域間の格差をどう考えるのか。目安のあり方自体も議論すべきテーマである。

 今や働く人の4割近くが非正規雇用だ。パートで働く人には、家計の補助のためではなくその収入で生計を立てている人も少なくない。最低賃金の底上げは待ったなしであることを忘れてはならない。