クリントン氏指名 米国の「常識」示せるか
再び「ガラスの天井」への挑戦である。全国党大会を開いた米民主党は、ヒラリー・クリントン前国務長官を大統領選の候補に指名した。民主、共和の2大政党で女性が大統領候補者になるのは初めてだ。
8年前の選挙ではオバマ現大統領が黒人として初めて当選し、米国社会の「ガラスの天井」が1枚破れた。今度はクリントン氏が女性の進出を阻む「天井」に挑む。
同氏は会場へのビデオ中継で指名に謝意を表明し「『ガラスの天井』に大きなヒビを入れた」と語った。当選すればさらに歴史的な出来事になるが、課題も少なくない。
民主党大会の直前、同党全国委員会の幹部らが、クリントン氏と指名を競ったサンダース上院議員を批判するメールをやり取りしていたことが発覚した。委員長の辞任表明は当然として、まだ隠されていることはないのか徹底究明が必要だ。
国務長官時代、クリントン氏が公務で私的なメールアドレスなどを使っていた問題もある。訴追はされなかったが、捜査当局は「極めて軽率」と指摘した。大統領夫人、上院議員、国務長官と公務が長年に及ぶ中、気の緩みはなかったか。謙虚に反省すべきだろう。
他方、党大会で演説したサンダース氏の態度は立派に見えた。全国委やクリントン氏に反発する支持者たちに「一番残念なのは私なのだ」と語りかけ、共和党のトランプ候補を破ってクリントン氏を当選させるのが自分たちの務めだと訴えた。
指名の投票で、全ての票をクリントン氏に入れるよう提案したのもサンダース氏だ。同氏は党の結束に大きな役割を果たしたといえる。
ではサンダース氏の支持者をいかに取り込むか。それがクリントン陣営の最大の懸案だ。サンダース氏を支持する若者たちは既成の権威や「エリート政治」に疑問を抱き、華やかな政治経験を持つクリントン氏に反発する傾向がある。
共和党でアウトサイダーのトランプ氏が支持を集めることと相似形をなす現象だ。米国社会には「ガラスの天井」に関する好ましい変化もあれば、格差に基づく不満の広がりも見られる。人気が伸び悩むクリントン氏が自分への批判を支持に変えるには、社会に鬱積する不満や怒りを率直に見直す必要がありそうだ。
外交面では、民主党が政策綱領で同盟国との関係強化をうたい、日本への「歴史的な責務」に言及したことを歓迎したい。同盟に関するトランプ氏の発言が国際的に不安を広げる折、クリントン氏は現実に基づく常識的な論理で対抗してほしい。トランプ氏も地に足をつけた話をすべきである。世界が耳を傾けている。