ASEAN会議 南シナ海安定に結束を
東南アジア諸国連合(ASEAN)と日米中などの周辺国が参加する一連の外相会議がラオスで開かれた。
ASEAN外相会議の共同声明は「国連海洋法条約など国際法に従って平和的に紛争を解決する必要性」を確認した。「南シナ海での航行や飛行の自由」の重要性も盛り込まれた。一方で、南シナ海のほぼ全域に自国権益が及ぶという中国の主張を退けた仲裁裁判所の判決への言及はなかった。
中国との領有権紛争を抱えるフィリピンやベトナムは間接的にでも判決に触れるよう主張したが、カンボジアが強硬に反対したという。中国が、関係の深いカンボジアに働きかけたとみられる。
全会一致というASEANの原則から導き出された結論だ。決定的な対立を避けつつ「国際法に基づく解決」を盛り込んだことは現実的な対応でもあろう。
ASEANには政治体制も、経済の発展段階も違う10カ国が加盟している。ベトナム戦争やカンボジア紛争といった戦乱で荒廃を招いた反省から「対立より協調」という理念で地域協力に取り組んできた。1967年に創設されて以降の現実的な歩みが、国際社会での存在感を高めることにつながっている。
南シナ海の問題をめぐる中国の切り崩し工作は、ASEANの志向する「緩やかな結束」への試練となっている。中国の強引な海洋進出にはインドネシアやシンガポールが警戒感を強めてもいる。力を前面に出しての対応は、中国にとっても得策とは言えない。
日本や米国にも注文がある。中国に判決受け入れを求めるのは当然だが、日米と中国が陣取り合戦を演じるようなことになってはならない。それは、ASEANの弱体化を招くだけであり、どの国にも利益をもたらさない。
中国の王毅外相は岸田文雄外相と会談した際、南シナ海の問題について「日本は言動を慎むように」と注文を付けた。中国は日本を部外者だと主張するが、南シナ海は日本の重要なシーレーン(海上交通路)である。日本が関心を持つのは当然のことだ。
中国はASEANとの外相会議で南シナ海での「行動規範」策定について「枠組み協議を来年上半期までに完了する」と提案した。具体性には欠けるものの、中国が行動規範と関連して日程を示したのは初めてのことだ。
判決を「無視する」と公言しつつも外交上の負担を感じているということだろう。法的拘束力を持つ行動規範の策定につなげ、南シナ海の安定を図ることができるか。ASEANの知恵が試されている。