撮影/山田秀隆
昨年のワールド・ハピネス METAFIVEのステージ
8月17日発売、METAFIVE「METALIVE」(ブルーレイ+CD)
撮影/山田秀隆
真夏のフェスシーズン到来! 数あるフェスの中でも、コンセプチュアルな独自の路線で個性を放っているのが「ワールド・ハピネス」だ。じつは、初回から続けてきた会場、東京・夢の島公園陸上競技場が今回で最後。キュレーターを務める高橋幸宏さんが、ワールド・ハピネスのこれまで、そして、夢の島ラストにかける思いを語る。(文・中津海麻子)
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――2008年から始まった「ワールド・ハピネス」。どんなコンセプトでスタートしたのですか?
フジロック・フェスティバルやサマー・ソニック、朝霧JAM、ライジング・サンなど、僕も何度か出演しましたが、すでに多くの音楽ファンに定着しているフェスで、観客の皆さんがテントやら何やら完璧な装備で来ているのに驚いたことがあります。それはそれでフェスの醍醐味(だいごみ)なんだろうけど、あそこまで準備しなきゃいけないとなるとなかなか気軽には参加できないんじゃないかな、と。特に小さいお子さんがいると難しいですよね。それに、若い人なら何日かのうち1日ぐらい大雨が降っても構わないかもしれないけど、ある程度の年になると、僕もそうだけどやっぱりしんどい(笑)。そういう理由でフェスに行くことをあきらめている人は少なくないだろうと思ったんです。
若いときはめちゃくちゃロックを聴いてたのに、サラリーマンになった瞬間からカラオケおやじになっちゃう、みたいに、音楽やロックから離れてしまう人は多い。でも、本当にロック好きなら年齢を重ねたって聴いてほしいし、フェスだってアーティストも観客も新旧色々いるというのがあるべき姿じゃないかな、と。都会からアクセスが良く身軽で行けて、親子連れもOK。芝生に敷いたレジャーシートに座りゆったりと音楽を楽しむことができる――。そんなふうに、老若男女、誰もがふらりと来られるようなフェスにしようというところからスタートしました。
当初は、僕とアートディレクターの信藤三雄さんがキュレーターとして、フェスの名前やコンセプトを考えていきました。名前がなかなか決まらなくてね、紆余曲折(うよきょくせつ)ありました。結果、「ワールド・ハピネス」ってちょっと大げさな名前になった(笑)。そういう気分だった。でも8年経った今、これ以外ないよねっていうぐらい時代にマッチしたネーミングになっているなぁと感じています。
――キュレーターとして参加アーティストを選ぶポイントは?
若手はとても多様化していて、おもしろい子たちが次々と出てきています。強烈な個性がある、あるいは、純粋に音楽の活きがいい、将来性は感じられるんだけどソロやバンドだけだと動員にはつながらない、そういう子たちにどんどん声をかけています。最近はウェブを中心に活動している人たちも多くて、そういう連中をリアルの場に引っ張り出したいという思惑もありますね。ただ正直、最近はほかのフェスとの取り合いになっていて。そんな中、今年は水曜日のカンパネラやYkiki Beatなど、注目の若手アーティストが初出演してくれることになりました。
夢の島公園陸上競技場が、今年が最後で一区切りということもあり、ベテラン勢はこれまで出てくれた気の置けない人たちにオファーしました。早い時期に電気グルーヴが決まったのはうれしかった。ここ数年、なかなかスケジュールが合わなかったスカパラも相当やりくりしてくれて。アッコちゃん(矢野顕子さん)もスチャダラパーも出てくれることになったし、なんと言ってもムーンライダーズの出演は、僕もうれしいけれど、ファンの皆さんも待ちわびてたのでは? 慶一(鈴木慶一さん)自体は全回出演の皆勤賞なんだけど(笑)、夢の島ラストだし、ダメ元で「ライダーズで出てよ」と頼んだら快諾してくれました。
――若手からベテランまでの多彩なアーティストを、選び、ステージの順番を決めていく。テーマやストーリー性を考えているのですか?
アルバムを作ることに似ていて、やっているうちにシンクロニシティーが起こるというか、何となく辻褄(つじつま)が合っていく。で、終わってみて「ああ、今回はこれでよかったんだ」と。自然とその年らしい「文脈」が生まれているような気がします。
――多くのアーティストが集うバックヤードはどんな雰囲気ですか?
僕の知り合いのレストランオーナーにケータリングしてもらっていて、小山田くんいわく、「世界中のフェスで一番料理がおいしい!」ってことだそうです(笑)。夏休みだからアーティストの皆さんにも家族連れで来てもらえるように、子どもたちが遊べるプールを用意したりね。和気あいあいと盛り上がっています。出演者からも好評で、以前くるりの岸田くんが、「ワールド・ハピネスはミュージシャンへのリスペクトが感じられて、とてもいいフェスだった」というようなことをツイッターでつぶやいてくれた。いいステージのためにもできるだけ居心地のいい環境は用意しようと思うし、アーティスト同士の交流の場になればうれしいですよね。観客の皆さんはもちろん、アーティストにも楽しんでもらえたのならば、キュレーター冥利(みょうり)に尽きるってもんです。僕自身はすべてのステージを見るようにしているので、みんなが楽しそうな中、僕は結構忙しかったりするんですが(笑)。
――この8年間で、フェスとしての変化や進化はありましたか?
会場の設計などは多少改善しましたが、コンセプトや考え方はほとんど変わっていません。2011年、東日本大震災の影響でほかのフェスが軒並み中止になった中でも、僕らは逆の発想で、日常を取り戻すためにもいつも通りやりました。ただあの年は、YMOのステージで「NO NUKES MORE TREE」の旗を掲げるなど、メッセージ性は強かった。「ワールド・ハピネス」の名に込めた思いと願いに、もう一度立ち返ったような感覚を覚えました。
僕は、フェスにイデオロギーを持ち込むことは全然構わないと思っている。今年、フジロックにSEALDsが出ると決まった途端に「音楽に政治や思想を持ち込むな」なんて運動が起こったけれど、あれは訳がわかんない。だって、そもそもロックってそういう音楽なんだから。
――キュレーターとしてだけでなく、毎年アーティストとしてもステージに立っています。何かプランはあるのですか?
今回で3度目の出演となるMETAFIVEでは、ほかのフェスではやらない曲、やります。まりん(砂原良徳さん)が「この曲やりたい!」って一人で盛り上がってるんですよ。僕的にはずっと抵抗してるんだけど、どうやらやることになりそうで(笑)。何かは秘密。ヒントは、オリジナルではない、ワンマンライブでは絶対にやらないような曲。ま、まりんが考えそうなことです(笑)。あとは、AFTER SCHOOL HANGOUTとムーンライダーズのゲストで出演します。
――1月に開催されたMETAFIVEのライブを全曲完全映像化したブルーレイ+CDの2枚組作品「METALIVE」が8月17日に発売されます。見どころ、聴きどころは?
MC以外は完全収録で、盛りだくさんになりました。臨場感があって聴きごたえがあると思います。それに、VJが抜群。そして、映像が流れていないときの照明もかなりいい。50年近く音楽やってきて、自分のステージを生で見たことがないんですけど、って当たり前か(笑)。今回のブルーレイで見たMETAFIVEのステージは、ちょっと感動ものでした。
METAFIVEは、僕も、そしてメンバーのみんなも、それぞれが投げたアイデアがどんどん化学変化していくのがおもしろい。CDも一つの完成形なんだけど、同じ曲をステージでやるとまったく違うものになったりする。そのあたりも、今回のフェスで楽しんでもらえたらうれしいですね。
――CDが売れないと言われて久しい中で、フェスがどんどん増え、音楽の楽しみ方も変わってきています。そうした現在の音楽シーンをどのようにご覧になりますか?
数だけでなく、テーマや参加アーティストなど色々なタイプのフェスが増え、楽しみ方が多様になっていることはいいことだと思います。ただ、個人的にはパッケージビジネスは大切だと考えていて。でも、それがCDかというと、世界的な動きを見ても疑問ではある。日本はアイドルのCDを中心にまだ売れているほうですが、海外ではもうCDなんてお話にならない。むしろアナログ盤のほうが注目されて売れているくらいらしいです。
さらに、アナログ盤に同じ内容のCDが付いていたり、ダウンロード・コードが付いていたり、音源はUSBだけで出してジャケットは別売りしたり、なんて試みも増えている。かと思えば、カセットテープがはやっているって聞いたりもします。音質に関して言えばハイレゾに逆行しているけれど、逆にその音や、見た目のかわいくてキッチュな感じがいい、と。若い人たちにとってアナログは決してアナクロでなく、むしろ新鮮に映るのかもしれない。日本でも、ますますそういう動きは高まっていくんじゃないかなと思いますね。
――先ほど少しお話がありましたが、夢の島公園が今回で最後です。今年のワールド・ハピネスにかける思いをお聞かせください。
例年そうですが、かなり凝縮して、かつ、アーティストの顔合わせの妙がより楽しめるフェスになると思います。ワンマンライブが見たかったけれどチケットが取れない、じゃあワールド・ハピネスで見よう、みたいな楽しみ方をしてもらっても。夢の島では最後なので、ぜひたくさんの方に遊びに来てもらいたいですね。
そして、今年は一つの節目にはなると思っています。ずっと僕がキュレーションをしてきましたが、いつまでできるかわからない。このフェスを続けていくためにも、そろそろ継いでくれる後任をちゃんと見つけなくちゃ。なんてことは考えています。
あとは天気。これはひたすら神頼み(笑)。
――そこは幸宏さんの神通力で!
以前から教授と「晴れ男は僕」「いや、僕だよ」とお互いに言い合ってたんだけど、教授が出なくなった途端にものすごい豪雨にやられてる。そろそろ教授、呼び戻しますか(笑)。
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■WORLD HAPINESS 2016
日程:8月28日(日)
時間:11時開場 12時半開演 20時終演予定
会場:夢の島公園陸上競技場
東京都江東区夢の島 3-2
出演アーティスト:METAFIVE/電気グルーヴ/大森靖子/GLIM SPANKY/スチャダラパー/ポカスカジャン/ムーンライダーズ/東京スカパラダイスオーケストラ/Ykiki Beat/矢野顕子/WEAVER/水曜日のカンパネラ/AFTER SCHOOL HANGOUT
チケットの詳細は公式ホームページで:http://www.world-happiness.com/
■METAFIVE「METALIVE」(ブルーレイ+CD)
2016年1月、EXシアター六本木で行われたライブを完全映像化。アンコール曲の「Luv Pandemic」では、モデルの水原祐果がゲストボーカルとして出演。クリエーターの中村勇吾(tha)によるVJも話題に。ブルーレイには「Luv U Tokio」のプロモーションビデオや「Don’t Move」「Masie’s Avenue」のスタジオ・ライブ・バージョンを追加。CDには、同公演のオーディオトラックを編集収録。8月17日発売。6,500円+税
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高橋幸宏(たかはし・ゆきひろ)
1952年生まれ。サディスティック・ミカ・バンド解散後、サディスティックスを経て78年、細野晴臣、坂本龍一とともにイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成。83年「散開」。ソロとしては現在までに通算23枚のオリジナルアルバムを発表。また、ソロと併行して鈴木慶一と「THE BEATNIKS」、細野晴臣と「SKETCH SHOW」、原田知世、高野寛、高田漣、堀江博久、ゴンドウトモヒコと「pupa」を結成。2014年、小山田圭吾、砂原良徳、テイ・トウワ、ゴンドウトモヒコ、LEO今井と、「高橋幸宏&METAFIVE」を結成(15年、「METAFIVE」に改名)し、16年1月にアルバム「META」をリリース。08年から毎年「ワールド・ハピネス」のキュレーターをつとめている。
高橋幸宏オフィシャルサイト:http://www.room66plus.com/
METAFIVE 特設サイト:http://sp.wmg.jp/metafive/
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