英国の欧州連合(EU)からの離脱決定が世界に及ぼした衝撃が薄れ、欧州域外の中央銀行は政策の焦点を世界的な市場混乱の脅威から自国経済へ戻せるようになってきた。
米連邦準備理事会(FRB)と日本銀行は今週、金融政策を決める。FRBの方が決定はしやすい。金利を引き上げる説得力のある理由はなく、新たな景気指標が出るのを待てる余裕があるからだ。一方、日銀は過度の市場のゆがみを引き起こさずに景気を刺激し続けるという難題を抱えるが、日本政府が間もなく経済対策をまとめることで、新たな政策を決めやすくなるはずだ。
もちろん、中央銀行の中にはイングランド銀行(英中銀)のようにEU離脱決定の影響に対応する必要があるところもあるが、それも今週の時点でほぼ固まった。来週の金融政策委員会を前に、同委で最もタカ派のウィール委員が、国民投票後に企業の景況感の大幅な冷え込みを示す統計が出たため、金融緩和の方針に転じたと述べたからだ。
FRBは異なる状況にある。6月中旬の前回会合では金利を据え置いた。英国のEU離脱決定に伴うリスクを見極めるためだったが、5月の米雇用統計で雇用者数が低水準だったことも理由だ。英離脱決定が米国の市場や実体経済に持続的影響を及ぼす可能性はほぼ消えた。だが、様々なリスクを勘案し、FRBは今回の米連邦公開市場委員会(FOMC)で金利を据え置き、9月の次回会合までに出てくる景気指標を注視する公算が大きい。
日銀はようやく外部の支援が見込めそうだ。この2年ほど過剰な緊縮策を取ってきた安倍政権は、先に決めた消費増税の延期に加え、新たな景気刺激策を間もなく発表する。
今週の日銀政策決定会合では、多くの投資家が量的緩和策の一環として、マイナス金利の一段の引き下げがあるのではないかとみている。実際、すでに市場は期待を一部織り込み済みで、日銀が期待を裏切れば円は急騰するかもしれない。
次の手段は財政当局に「返済不要」の資金を提供する「ヘリコプターマネー」だろう。最近の中央銀行の基準からしても大胆な策だ。しかしながら、日本の超低金利と日銀の景気刺激策の手詰まり感を踏まえれば、現状ではどのような金融緩和策でも財政出動と連動すれば、はるかに効果が出やすい。
■財政と金融、両方の政策が有益
安倍政権が間もなくまとめるとみられる景気刺激策は規模や中身、タイミングが全て重要だ。経済に大きな効果を生み出せる規模でなければならないし、新たにインフラ支出を打ち出すより家計に恩恵が行くものである方が有効だ。また、日銀の政策決定と同じようなタイミングで発表し、財政と金融の政策の協調を演出することも有益だろう。
英国以外の世界の政策当局者には、経済が英国民投票前の正常な状態に戻ったという安堵感が広がっている。FRBと日銀の任務はたやすくない。特に日銀はそうだ。しかし少なくとも、抱える課題やリスクは未体験のものではなくなっているように見える。
(2016年7月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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