東京が壊滅する日 ― フクシマと日本の運命
【第39回】 2015年11月28日 広瀬 隆 [ノンフィクション作家]

日本で甲状腺ガンが
激増する理由
――白石草×広瀬隆対談【後篇】

『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が増刷を重ね、第6刷となった。
本連載シリーズ記事も、累計290万ページビュー(サイトの閲覧数)を突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者と、OurPlanet-TVの白石草(はじめ)氏が初対談! 
白石氏は『ルポ チェルノブイリ28年目の子どもたち』(岩波書店)で、具体的な固有名詞や数値を出しながら、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故のその後を詳細にレポートした。
また、OurPlanet-TVでも、フクシマ原発事故に関する衝撃的な映像を日々公開している稀有な女性だ。
そんな折、8月11日の川内原発1号機に端を発し、10月15日の川内原発2号機が再稼働。そして、愛媛県の中村時広知事も伊方原発の再稼働にGOサインを出した。
本誌でもこれまで、38回に分けて安倍晋三首相や各県知事、および各電力会社社長の固有名詞をあげて徹底追及してきた。
スベトラーナ・アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り』がノーベル文学賞を受賞した今、白石氏がチェルノブイリとフクシマの現地で把握した事実と科学的データはあまりにも重い。
安倍政権によって、真実の声が次々消される中での対談最終回をお届けする。
(構成:橋本淳司)

岡山大学・津田敏秀教授の
衝撃的な発表

広瀬岡山大学の津田敏秀教授が、つい先日の2015年10月8日、東京都内にある日本外国特派員協会で記者会見をして、こう警告しました。

1986年に起きたチェルノブイリ原発事故のあとに甲状腺ガンの発症が多発したケースが、福島に重なる事態は避けがたい」と。

 つまり、ベラルーシにおける甲状腺ガンの症例数の変化のグラフを示して、現在の福島県は真ん中の赤い矢印のあたりにあり、事故から4年以上を経過しているので、これから青い四角で囲った領域に突入してゆくことが予想される、という重大な警告です。

広瀬 隆
(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

 この会見はOurPlanet-TVで見られますので、すべての日本人が見るべきです。

 というのは、記者会見を多数の日本人が取材していながら、ほとんど報道ゼロだからです。
 ニューヨーク・タイムズで報道したのに、これほど重大な内容が無視される日本とは、いったい何なのでしょう。
 白石さんは、最初に津田さんを取材した人なので、くわしく説明してください。

白石 最初の取材は、2013年3月でした。
 津田教授は水俣病、じん肺訴訟、淀川大気汚染裁判など、さまざまな公害裁判に関わり、疫学調査に基づいた意見書を書いてきて、原告勝訴を導いてきた方です。
 結局、こういう問題では、その研究者がどこに立っているか、ということがすごく重要です。

 今回の研究論文は、今年、2015年10月7日、国際環境疫学会が発行する医学雑誌『Epidemiology(疫学)』のオンライン版に掲載されたものです。

 福島県が、2011年から2014年末までに、18歳以下の福島県民の約37万人を対象に実施してきた、甲状腺の超音波検査の結果を、津田先生が分析したところ、中通りと呼ばれる福島県の中部地域(二本松市、本宮市、三春町、大玉村)では、甲状腺ガンの発症率が日本の平均に比べて約50倍になっているというのです。
 また、福島県内の平均でも約30倍の値になっていることなどが明らかにされています。

白石 草
(Hajime Shiraishi)
早稲田大学卒業後、テレビ局勤務などを経て、2001年に独立。同年10月に非営利のインターネット放送局「OurPlanet-TV」を設立。一橋大学大学院地球社会研究科客員准教授。2012年に「放送ウーマン賞」「JCJ賞」「やよりジャーナリスト賞特別賞」、2014年に「科学ジャーナリスト大賞」をそれぞれ受賞。著書に『ルポ チェルノブイリ28年目の子どもたち』『メディアをつくる――「小さな声」を伝えるために』(以上、岩波書店)、『ビデオカメラでいこう――ゼロから始めるドキュメンタリー制作』(七つ森書館)などがある。

広瀬 津田さんは、あの外国人記者クラブで大事なことを言っていましたね。

直接私に対して反論する人はいません。
 私の資料と見解について異論のある人は、陰口で批判せずに、公開の場で私と直接討論しなければならない。
 批判があれば、直接、公開で議論しましょう。陰口をやめて
」と。

ここが一番大事なところです。
 このとき、「なぜ岡山大学が」というちょっとイヤらしい質問が出ました。
 言葉の端々に「岡山大学のような地方大学がなぜ?」というニュアンスが感じられました。
 トンデモナイことです。

 実は岡山大学は、大原社会問題研究所(現・法政大学大原社会問題研究所)と深いつながりがあります。
 大正時代に岡山県倉敷の大富豪・大原孫三郎が大原社会問題研究所をつくり、高野岩三郎、森戸辰男、大内兵衛(ひょうえ)、櫛田民蔵(くしだたみぞう)などの社会学者を集めて労働問題に取り組みました。ここが原点なのです。

白石 津田さん自身も、そういうふうにおっしゃっていました。

広瀬 戦後に初代NHK会長になった高野岩三郎は、大原社会問題研究所の所長で、鈴木安蔵(やすぞう)と共に日本国憲法を生み出した人です
 これは、現在のSEALDsに聞いてもらいたい話──つまり、憲法問題と原発問題の密接なつながりがある重要なところです。
 それが、白石さんのおっしゃる、「研究者がどこに立っているか」という点ですね。津田先生が、そのイヤらしい質問に対して、

私たちは、疫学の統計分野では日本一です。
 日本の疫学的解析能力は、アメリカ・ヨーロッパに比べて、きわめて低い

 と、はっきり言い切ってくれましたね。
 岡山県には、ウラン採掘をしてきた人形峠があって、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の候補地でもあり、岡山大学の研究者が、以前から、中皮腫など肺にできる癌は、吸い込んだアスベストにより肺に放射性物質のラジウムがたまって“ホットスポット”ができる、という重要な研究結果を発表してきたので、私は、知っています。

白石 津田先生のお話によると、日本の疫学者の多くはガンの治療薬の効果などを分析する研究者が多く、環境曝露(ばくろ)についてやっている人は少ないそうです。

広瀬 まったくその通りです。私も長い間、医学をやってきた中で、そうしたガンの治療の統計処理に、以前から大きな疑問を持ってきました。
 日本の多くの医師には、病気を出さないという予防医学の視点が欠けているのです。水俣病の研究をされていた、私の敬愛していた原田正純(まさずみ)先生が、
公害は、医者が出てきたときには手遅れだ
 と、この言葉を遺言として、フクシマ原発事故のあとで亡くなりました。
 つまり、現在がその段階です。
 津田先生たちが出てきたということは、もう手遅れだと言うべき段階に入っています。私たちが大量に被曝したのは事実ですし、この被曝は、すでに取り返しのつかない過去の出来事です。あとは、体内での時限爆弾の発症を待つだけです。
 福島県内の現状について、くわしく説明してください。

2巡目「本格調査」
25人の衝撃

白石 福島での甲状腺検査は2011年10月から、事故当時18歳以下だった子どもを対象に開始されました。
 2013年までの1巡目の調査は、「先行調査」という言い方をされています。
その検査で、113人が穿刺(せんし)細胞診という検査によって──つまり細胞を採取して、甲状腺ガンまたは甲状腺ガンの疑いがあると診断され、そのうち99人が手術を受け、1人を除く98人が甲状腺ガンであることが確定しました。
 さらに、去年から2014~2015年に実施した2巡目の「本格調査」では、ガンの疑いを含めて、25人の甲状腺ガン患者と診断されています。

広瀬 その数字が、一般の人にはわかりにくいと思うので、くわしく説明してください。
 とくに「1巡目」と「2巡目」の違いの意味を。

白石 この検査は、チェルノブイリ原発事故では、「事故後4年目までは多発がなかった」という前提で、前回の話題に出てきた山下俊一氏などが設計したものです。
 1巡目というのは、まだ「被曝の影響がない」状況で、通常の状態でのガンを見つけ、それをベースラインにして、それ以降を比較しようというわけです。
 1巡目を「先行調査」、2巡目以降を「本格調査」と呼んでいるのは、このためです。

 ところが、想定外のことが起きました。
 本来なら、被曝の影響が出ないはずの「先行検査」の段階で100人以上の甲状腺ガンが見つかってしまったのです。
 さらに、今年、2015年8月31日に発表された途中段階のデータなのですが、2014~2015年に実施した2巡目の「本格調査」で、ガンの疑いを含めて、25人の甲状腺ガン患者が発見されました。
 これはたいへん深刻な問題だと考えられます。

 というのも、2巡目というのは、「2年前の検査では異常のなかった子ども」に新たにガンが見つかったからです。
 つまり、原発事故のあと、この2年以内にガンが発症したということになります。それが25人いたのです。
 もともと100万人に1人か2人しか発症しない稀少な甲状腺ガンが、2年間のうちに25人に見つかったというのは大問題なのです。
 津田先生のグラフを見ても明らかなとおり、被曝の影響ではないと否定する材料はありません。
 あらゆる可能性を想定して、今後に備える必要があると思います。

広瀬 逆算すれば、福島県の児童が何百万人もいなければ、これほどの発症率にはならない、ということですね。
 福島県の人口は200万人です。100万人に2人という話をしているのに、25人も出てきたら、逆算したらとんでもない児童数がいなければならない……。

「津田ショック」は
海外でどう報じられているか?

白石 このことは海外では大きく報じられています。スクリーニングの写真も有識者のコメントも入っています。

個人線量が明らかになっていないので弱点はあるが、非常に重要な視点で公衆衛生上、政策に生かしていかないといけない

 海外メディアでは下記のように紹介されているのです。

◆AP通信
http://bigstory.ap.org/article/9bd0b3e588634b908193939638126250/researcher-childrens-cancer-linked-fukushima-radiation#

◆NBC
http://www.nbcnews.com/storyline/fukushima-anniversary/thyroid-cancer-rates-higher-kids-near-fukushima-nuke-plant-study-n440801

◆UPI
http://www.upi.com/Top_News/World-News/2015/10/08/Fukushima-radiation-hits-home-as-thyroid-cancer-rises-among-children/2801444327378/

◆ドイツのメディア
Fukushima aktuell: Zusammenhang zwischen AKW-Krise und Schilddrüsenkrebs vermutet
http://www.spreadnews.de/fukushima-aktuell-zusammenhang-zwischen-akw-krise-und-schilddruesenkrebs-vermutet/1147861/

◆イタリアのメディア
Tumori: Fukushima, picco di cancro alla tiroide nei bambini
http://www.focus.it/scienza/salute/tumori-fukushima-picco-di-cancro-alla-tiroide-nei-bambini#.VhXLIvWSGB8.twitter

 津田さんのところには、海外の研究者から数多くのメールが届いていて、
首相が記者会見を開くような話になっていないのか?
 と心配しているようです。それくらいのインパクトがあると、海外では考えられています。

広瀬 それが日本では、どの新聞にもほとんど載っていないのです。
 共同通信と東京新聞のベタ記事だけですよ。バカじゃないのか、と怒鳴りつけたい気持ちでした。
 このうちニューヨーク・タイムズの記事を、最近私がsearch(検索)したのですが、記者会見当日、10月8日に記事は書かれ、ヘッドラインは出てくるのですが、記事そのものが削除されていました。
 理由はわかりませんが、どこかからの圧力なのか。

白石 この問題はタブーというか、誰も書けない状態になっています。
 しかも、インターネット上での批判の多くは、疫学者によるものではなく、物理学者など別分野の方がほとんどであることも気になります。

広瀬 おかしいんだよ、これほど重大な事実が……なぜ書けないの。

チェルノブイリを
一切学んでない日本

白石 私は津田さんの研究発表がこれだけ黙殺されているのは、かなり深刻な状況だと感じています。デング熱や新型インフルエンザでもそうなのですが、日本は通常、過剰なほど社会防衛的な予防措置をとる国ですが、原発だけが例外です。100人のガンを放置しています。津田さんが会見で何度も言っていました。

チェルノブイリのことを、この国は一切学んでない」と。

 私も現地を取材してみて、本当にそう思います。
 チェルノブイリでは、事故後4年目に、ウクライナで小児甲状腺ガンが多発しているという論文が発表されましたが、IAEAが「検査をしすぎによるスクリーニング効果である」と否定しました。
 国際的に因果関係が認められたのはそれから5年後の1996年のことですが、それは、事故後に生まれた子どもたちをスクリーニングした結果、ほとんど甲状腺ガンが見つからなかったためです。
 津田教授は、これらのデータも論文で引用しています。

 いずれにせよ、これからの対策としては、まず医療体制をきちんと整備しないといけません。
 日本は甲状腺ガンの専門医が非常に少なく、また、ヨード治療の施設も欧米より格段に少ないと言われていますから。

広瀬 チェルノブイリ原発事故の調査結果では、青年から、さらに成人に移行してから甲状腺ガンが発症するケースが増えてきました。
 つまり福島県でも、もう事故から5年近くたっているのだから、検査対象を18歳以上に引き上げなくてはなりません。
 それから被曝した人たちをサポートするためにも、日本全国の各地へ避難して散らばった人たちをネットワーク化しなくてはならないでしょう。

白石 そうですね。ウクライナでは、もともと医療費が無料なのですが、原発事故の「被災者」はすべて医薬品が無料となります。
 では、「被災者」をどう把握しているかといえば、事故処理作業員や0.5ミリシーベルト以上の地域に暮らしている人たちすべてを登録するデータベースがあるのです。
 240万人という大規模なデータベースです。日本は急いでそれを見習うべきです。具体化が必要です。

広瀬 どれくらいのお金でデータベースができるでしょうか。福島県民は200万人ですが……。

白石 ウクライナのデータベースは驚くほど安いんです。日本円で、年間3000万円程度です。
 人件費の安さは考慮しなくてはなりませんが、彼らの方法を学べば、日本でもそんなにお金をかけないで、できるのではないかと思います。
 というか、ウクライナも最初はヒロシマ、ナガサキの12万人のデータベースを参考にしました。けれど、ヒロシマ、ナガサキは、すぐそばで原爆に被害にあった「直爆」を中心に研究が行われているため、1990年代に大幅に見直しし、現在のような、低線量被曝の影響を主眼に置いた、大規模なデータベースを確立したのです。
 現状に合わなければ、すぐに方針を見直すという彼らの柔軟さを見習いたいものです。
 政府に期待できないのであれば、民間で取り組むことも視野に入れる必要があると思います。
 たとえば、携帯アプリを開発して、定期的に身体症状などを記録できるようにするとか。裁判になれば、最終的には自覚症状が重要ですから。

広瀬 私もそう思います。
 日本では、福島県の自治体も政府も信用できないので、民間で取り組まなければなりません。
 ただし、プライバシーの個人情報保護は必要ですから、誰もが信頼できる人が中心になって進めたいです。
 弁護士も医師も加わって、信頼できる人が何人か入った機関をつくって、セキュリティーを万全にしてデータを収集する。
 それから、ウクライナのように、サポートの見返りがあると、被害者が申し出しやすいですね。

白石 そう、ウクライナでは登録している人は無料で保養チケットが出るなど、いろいろな特典があって社会保障のひとつになっています。
 データベースに対する信頼は極めて高く、心身の異常を申し出しやすいシステムになっています。

広瀬 それが真の社会保障です。
 そもそも福祉という言葉の原点は、そこにあるですからね。
 ダイヤモンド書籍オンラインの読者の方々には、OurPlanet-TVが発売しているDVD「チェルノブイリ28年目の子どもたち」の最初の版(低線量長期被曝の現場から)と、そのVol.2(いのちと健康を守る現場から)を買って、ぜひ見てほしいと思います。
 ウクライナはロシアとの紛争があって、大統領も交代したので心配だったのですが、チェルノブイリ被災者の救援が続けられていることを知りました。
 必ず、これを見てください。
 ウクライナと比較して、日本がどれほどおそろしいか、という事実がわかります。

白石 広瀬さんがお話しくださったビデオは、実は、インターネット上で無料で視聴できます。ぜひご覧いただきたいです。

チェルノブイリ28年目の子どもたち〜低線量長期被曝の現場から
https://m.youtube.com/watch?v=3hv-5bW17Rs

チェルノブイリ28年目の子どもたち2〜いのちと健康を守る現場からhttps://m.youtube.com/watch?v=3Sxt6sYBa9Q

 ただ、DVDもあるので、そちらを買っていただけると助かります。
 私たちは、普通のマスコミと違い、あらゆることをタブーなく報道するために、企業からの広告は一切受けていません。
 ですから、DVD1枚買っていただくのも、私たちの活動には大切な資金源なのです。

DVD購入ページ
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1901

 しかも、このDVDは1枚2000円で購入すれば、誰でも自由に上映会を開くことができます。有料の上映会でもOKです。
 インターネットが不得意で、きちんとした情報にアクセスしていない家族やお友だちなど、なるべく多くの方に広げていただきたいと思っています。

広瀬 白石さん、ご多忙のところ、3回にわたる対談、貴重なデータの数々、ありがとうございました。これからも、全国の人に貴重な事実を伝えてください。救世主ですから。

(おわり)

なぜ、『東京が壊滅する日』を
緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ

 このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。

 現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超
 2011年3~6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。

 東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
 映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951~57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。

 1951~57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発~東京駅、福島第一原発~釜石と同じ距離だ。

 核実験と原発事故は違うのでは? と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い。

 3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。

 不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。
 子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない

 最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?

 同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。

 51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。

「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実

 よろしければご一読いただけると幸いです。

<著者プロフィール>
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『日本のゆくえ アジアのゆくえ』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

 

白石 草(Hajime Shiraishi)
早稲田大学卒業後、テレビ局勤務などを経て、2001年に独立。同年10月に非営利のインターネット放送局「OurPlanet-TV」を設立。一橋大学大学院地球社会研究科客員准教授。2012年に「放送ウーマン賞」「JCJ賞」「やよりジャーナリスト賞特別賞」、2014年に「科学ジャーナリスト大賞」をそれぞれ受賞。著書に『ルポ チェルノブイリ28年目の子どもたち』『メディアをつくる――「小さな声」を伝えるために』(以上、岩波書店)、『ビデオカメラでいこう――ゼロから始めるドキュメンタリー制作』(七つ森書館)などがある。