東京が壊滅する日 ― フクシマと日本の運命
【第29回】 2015年10月24日 広瀬 隆 [ノンフィクション作家]

避難中の11歳男子が
「アベ政治を許さない」と
デモに参加した姿に涙!
――木内みどり×広瀬隆対談【前篇】

『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が増刷を重ね、第6刷となった。
本連載シリーズ記事も累計250万ページビュー(サイトの閲覧数)を突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者と、女優の木内みどり氏が初対談!
木内みどり氏は、原発問題に関して、各種市民集会の司会を務めている。
8月11日の川内原発再稼働後、豪雨による鬼怒川決壊、東京で震度5弱、阿蘇山噴火、南米チリ沖マグニチュード8.3地震による津波余波など、日本列島を襲う自然災害が続出している。
これを受け開催された、10月23日の広瀬隆氏の緊急特別講演会も大盛況だったという。
本誌でも、これまで計28回に分けて、安倍晋三政権および各電力会社社長の固有名詞をあげて徹底追及してきた。
だが、なぜ再稼働をするのか? いまだ明確な説明がなされていない。
地震や自然災害が多発する中、注目の対談1回目をお届けする。
(構成:橋本淳司)

夫の県知事選の手伝いで
気づいたこと

広瀬 隆
(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

広瀬 木内さんが原発反対だということを、僕は、フクシマ原発事故が起きるまで知りませんでした。

木内 私は事故後に反原発になりました。原発の真実や事故の影響について知るうちに、「こんなものはあってはいけない」と、遅まきながら気づいたのです。

広瀬 ご主人の水野誠一さんが静岡県知事選に出られたとき、浜岡原発停止を訴えていたことは知っていたのですが、水野さんと木内さんが、僕の頭の中では結びついていませんでした。

木内 14年前、水野が静岡県知事選に出たときに、候補者の妻として暑い暑いひと夏、朝から晩まで一緒に走りました。

 あのとき、どこへ行っても水野が「浜岡原発を止めたい」と言うのです。すると、聞いている人たちが「厄介な話を始めたな……」とシラケて、引かれてしまうことに気がつきました。

 当時の私は、原発についてまったく理解していませんでしたから、
「ねぇ、原発の話はやめましょうよ。みんなシラケるでしょう」
 なんて言うほど無知でした。

広瀬 事故が起きるまで、多くの人が原発は安全だと思っていましたから。

木内みどり
(Midori Kiuchi)
女優。1965年劇団四季に入団。初主演ドラマ「日本の幸福」(1967/日本テレビ)、「安ベエの海」(1969/TBS)、「いちばん星」(1977 /NHK)、「看護婦日記」(1983/TBS)など多数出演。映画は、三島由紀夫原作『潮騒』(1971/森谷司郎監督)、『死の棘』(1990/小栗康平監督)、『大病人』(1993/伊丹十三監督)、『陽だまりの彼女』(2014/三木孝浩監督)、『0.5ミリ』(2014/安藤桃子監督)など話題 作に出演。コミカルなキャラクターから重厚感あふれる役柄まで幅広く演じている。3・11以降、脱原発集会の司会などを引き受け積極的に活動中。Web Magazine:「木内みどりの発熱中!」

木内 じつは、水野の父が浜岡に原発を誘致した人なのです。
 当時の多くの人たちと同じように「原子力 明るい未来のエネルギー」と考えていたのでしょう。

 しかし、チェルノブイリで原発事故が起きました。水野は驚いていろいろ勉強しまして、「父が生きていたら絶対に止めたいに違いない」と思い、原発に反対するようになりました。

広瀬 今では、木内さんが反原発集会や安保反対集会の司会をしてくださったり、鹿児島市内で、誰もいないところで、一人でビラを撒いてくださっている姿を見て、この人は本物だなと思いました

木内 以前は国会議員に何か言ったりするなんて考えられなかったし、怖かった。自分はただの一市民で、国会議員さんなんて2つも3つも上のステージ上にいる人という感覚があったんです。
 でも、 少しずつわかっていきました。
 自分の思うことを自分のできる範囲で動けばいいんだって。人生は一度きりで終わりがある。
 だから、自分らしいやり方でこれからも行動していきたい
と思っています。

ロンドン、ニューデリーで
反原発スピーチ

広瀬 木内さんは外国も走り回っていますね。イギリスの日本大使館の前でスピーチしたという「東京新聞」の記事を見て、ビックリしました。

木内 なんだか、あれよ、あれよという間に、そういう流れになっちゃったのです。私も逃げるわけにいかないと思ってスピーチしました。
 そうしたら、「東京新聞」と「中日新聞」のヨーロッパ総局長がやってきて、記事にしてくれました。
木内みどり、英国の日本大使館の前で日本政府を批判」って。
 あれから私も、覚悟しないとダメだなと思いましたけど(笑)

広瀬 筋金入りだ。そのあとはインドのニューデリー

木内 ニューデリーで、たまたま2日間、時間が空きました。
 私、何もしないのは時間がもったいないから、ニューヨークに住んで原発のことをやっている友達と、ロンドンに住んで原発のことをやっている友達2人に、「ニューデリーで脱原発運動をやっている人を紹介して」とメールをしたら、2時間後に2人とも同じ人物を紹介してくれたのです。会いにいったら、その人は日本から反原発の活動家が会いにくると思ったみたいです。
 私が女優だとわかるとびっくりしていました。それで、ニューデリーでも英語でスピーチしちゃって。
 自分でも、変わった人生を歩んでいるなあと思います。

広瀬 行動力がありますね。
 でも、木内さんだけでなく、いまの日本中の運動を見ていると、リーダーが率いる運動ではなく、どこの土地でも一人ずつが知恵をしぼって、次から次へと勝手に行動を起こして、私も追いつけないほど、集会やデモや、ハンストが行われています。
 このような個々の人の、個性的な、自分の年齢と、体験からにじみ出てくる活動力が、まったく衰えないというのは、たいしたものです。
 ところで、外国で演説する木内さんは、英語はペラペラですか?

木内 全然なんです(笑)。自分で文章を組み立てて、英語のできる人に直してもらって、原稿を持って読んでいます。

広瀬 女性は度胸があって、ものおじしないからいいです。外国にゆくと、どうも男はプライドが高くて、会話がダメですよ。

11歳の少年が掲げた
「アベ政治を許さない」

木内 でも、この4年近く続けてきて、私の本気さをわかってもらえるのか、最近、福島で被災した人や、避難している人が話しかけてくださるようになりました。
「脱原発のことを本気でやってくださってありがとう」と言っていただくと、やはり、うれしいです。

広瀬 私の福島の仲間たちも、木内さんのことを本当に頼もしい人と思っていますよ。

木内 先日、福島から避難しているお母さんと話をしていたら、彼女が涙を流されたのです。
 その様子を小学高学年くらいの息子さんが行ったりきたりしながら見ていたのです。
夏休み、長いんでしょう。東京に私の家に泊まりにこない?
 って考えもなしに言ったら、「行く」ってその少年が言うんですよ。
 結局、2泊3日でうちに泊まりにきてくれました。

 浅草に行ったりとか、六本木ヒルズに行ったりとか、ギャラリーを見に行ったり、ほとんどの時間一緒にいて冗談ばかり言って一緒に笑っていました。
 うちには「アベ政治を許さない」というあの大きなチラシを、どこからでも見えるように貼ってあるので、その子が帰るときに、「この前で写真撮ろうか」となにげなく言うと、「うん」と言って「アベ政治を許さない」と並んで立ったら、顔がすっと変わりました。
 冗談を言っていたときとは全然違う顔をしていました。

広瀬 その少年は、何か言っていましたか?

木内 そのときは、そのことには触れずに別れました。
 ところが、その子が家に帰ったら、お母さんに、「安保反対のデモはどこであるの?」と聞いたそうです。「行きたい」って言うんですって。
 あとからお母さんが、彼が「アベ政治を許さない」と書かれたプラカードを掲げてデモに加わっている写真を送ってきてくれました。
 それを見たら涙が出ちゃって……。原発事故以来、彼の中にあったモヤモヤした怒りみたいなものが、こういう形で表れたんじゃないかなって思います。

広瀬 木内さんの本気が、言葉にしなくても伝わったんじゃないですか。

木内 そうだとうれしいです。その後もお母さんからメールがきて、
「また息子がデモに行きました。今度は友達を誘って行きました」
 って。今度は2人の少年が「アベ政治を許さない」と書かれたプラカードを掲げていました。感動しましたね。
 人は、人の本気が響いて初めて動く。
お金や物や地位で動く人ばかりじゃない、ということですよね。

(つづく)

なぜ、『東京が壊滅する日』を
緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ

 このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。

 現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超
 2011年3~6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。

 東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
 映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951~57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。

 1951~57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発~東京駅、福島第一原発~釜石と同じ距離だ。

 核実験と原発事故は違うのでは? と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い。

 3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。

 不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。
 子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない

 最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?

 同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。

 51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。

「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実

 よろしければご一読いただけると幸いです。

<著者プロフィール>
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『日本のゆくえ アジアのゆくえ』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

 

木内みどり(Midori Kiuchi)
女優。1965年劇団四季に入団。初主演ドラマ「日本の幸福」(1967/日本テレビ)、「安ベエの海」(1969/TBS)、「いちばん星」(1977 /NHK)、「看護婦日記」(1983/TBS)など多数出演。映画は、三島由紀夫原作『潮騒』(1971/森谷司郎監督)、『死の棘』(1990/小栗 康平監督)、『大病人』(1993/伊丹十三監督)、『陽だまりの彼女』(2014/三木孝浩監督)、『0.5ミリ』(2014/安藤桃子監督)など話題 作に出演。コミカルなキャラクターから重厚感あふれる役柄まで幅広く演じている。3・11以降、脱原発集会の司会などを引き受け積極的に活動中。Web Magazine :「木内みどりの発熱中!」