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UberやAirbnbは最初の1,000ユーザーをどうやって獲得したのか?

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スタートアップのサービスを始める際に最も重要かつ、難しいのが初期ユーザーの獲得方法である。素晴らしいアイディアを元に、多くの時間とリソースを費やし、プロダクトをリリースしても一向にユーザーが集まらない。こんな問題に直面するケースは少なく無い。

実際にスタートアップや、社内ベンチャーを行なっている人々から受ける相談で最も多いのが「どうやったら初期のユーザーが集まりますかね?」である。今回は、Uber, Airbnb, Etsyのケースを中心に、現在では大成功しているスタートアップが初期段階でどのようにユーザー獲得を行なってきたかを検証し、初期ユーザー獲得方法を学んでみたいと思う。

参考: 米国有名スタートアップ8社がユーザー獲得の為に行ったグロースハック施策例

人気プラットフォームはどのようにして最初の1,000ユーザーを獲得したのか

今回事例として紹介する3つのサービス、Uber, Airbnb, Etsyは世界的に見ても大成功しているサービスといえる。

Uber

まずはライドシェアサービスを提供するUber。は2016年の時点での評価額が未上場で6兆円を超える世界一のユニコーン企業。その成長率は凄まじく、現時点でのUberに関しての統計は下記のよとおり。

参考: 創業5年で企業価値5兆円に: Uberが示す急成長のポイント

Uberに関する主な統計

初期バージョンのリリースは2010年
アプリは世界60カ国、300都市にて利用可能
デイリーアクティブユーザー数は800万人以上
毎日約100万件の乗車数
アメリカでのドライバー数は約16万人
2015年度のグロス売り上げは約100億ドル

Uberのドライバー数グラフ

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Airbnb

そしてAirbnb. 日本では民泊と呼ばれる、ユーザー同士で宿泊施設の貸し借りを行なうプラットフォームで、世界各地にて利用可能。ユーザーの伸びもハンパ無く、アメリカ国内ではUberに続くユニコーン企業として、大躍進を続けている。

Airbnbに関する主な統計

2016年2月時点でのユーザー数: 6,000万
ホスト側ユーザー数: 64万
掲載物件数: 200万
一晩の平均予約数: 50万
滞在可能な都市数: 57,000
滞在可能な国数: 101

2015年のグロス売り上げ: 9億ドル

参考: デザイン最優先のAirbnbがユーザー獲得のために行う3つのマインドセット と4つのコアプロセス

Airbnbの成長を示すグラフ

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Etsy

Etsyはアメリカを中心に、手作り商品を売り買いするハンドメイドクラフターのためのマーケットプレイスである。サービスのリリースは2006年頃で、主婦層を中心にハンドメイド系製品の売り買いではダントツの存在。EC系のマーケットプレイスとしては、Amazon, Ebayと共に確固たる地位を築き上げて来ている。2015年より日本国内でも利用可能になっている。

Etsyに関する主な統計

登録メンバー数: 5,400万
購入側アクティブユーザー数: 2,500万
販売側総ユーザー数: 160万
販売側ユーザーの所在国数: 83
登録商品数: 3,500

2015年のグロス売り上げ: 23.9億ドル

ニワトリと卵の問題に直面しがちなプラットフォーム型ビジネス

今回事例として取り上げたUber, Airbnb, Etsyの3つは、いわゆるプラットフォームと呼ばれるタイプのサービスで、ユーザー同士が売買、もしくはサービスの提供、購入を行なう事でその存在価値が生み出される。逆に言うと両方のタイプのユーザーが揃って初めてサービスが成り立つが、どちらかが欠けてしまうとその価値が無い。

買ってくれるユーザーが居ないと売りたいユーザーが集まらないし、サービス提供側のコンテンツが空だとプラットフォームとしての魅力が無い。悩ましい問題である。ユーザー獲得の面から考えると、どちらのユーザーを先に獲得するべきかが常にニワトリと卵の状態になってしまい、最初の課題となってくる。

どちらのユーザーを優先するかが重要

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まずは提供側の獲得を優先

結論としては、まず最初に集客としてフォーカスすべきは、サービス/商品提供側のユーザーである。理由としては、商品や物件が無い状態で利用者側のユーザーが来てしまった場合、その体験のクオリティーが低く、二度と利用してもらえない可能性が高まる。これが提供側であれば、一度登録してもらえれば最低でも数日は待ってもらいやすいからである。そして、提供ユーザーはその数だけではなく、ドライバーや宿泊施設、そして商品などの提供サービスのクオリティーをたんぽするのも重要になる。

Airbnbが初期に行なったホスト側ユーザー獲得方法

では実際に既存の人気サービスがどのようにしてサービス提供側のユーザーを集めるたかを見てみよう。Airbnbがリリース後に宿泊施設を提供するホスト側のユーザー集めた方法を紹介する。

現在でこそAirbnbのプラットフォームを介して部屋を貸し出す事が一般的になっているが、リリース当時はやはり見ず知らずの人に自分の家や部屋を貸し出すのはハードルが高かった。そこでAirbnbのファウンダー達は、新規ユーザーの開拓よりも、すでに部屋の貸し出しを行なっているユーザー層に着目した。

具体的な手法として、アメリカ最大のクラシファイドサイトであるCraigslist上でユーザー同士が部屋の貸し借りをする掲示板に注目した。そこに既に貸し出し物件のリストがされている。そこで、ファウンダーであるBrianとJoeの二人はCraigslistに部屋を掲載しているユーザーの連絡先を一斉に収集するソフトを開発。そこに集められたユーザーに対して一斉に"Craigslistへの掲載と同時にAirbnbにも無料で掲載が出来ますよ"との内容のメールを送信したのだ。

効果はバツグンで、多くのユーザーからの物件リスティングを獲得した。ユーザーにとってみれば、一つの物件をリスク無く2カ所にリスト出来るわけで、より多くの借り手を見つけやすくなる。加えて、AirbnbはCraigslistよりも詳細な情報と綺麗な写真、そしてスムーズな予約プロセスを提供していたため、人気が高まった。

新しいサービスを提供するからといって、全く何も無いところからユーザーを集める必要は無い。このAirbnbの事例からもわかるとおり、すでに同じニーズを持ち合わせたユーザーが集まる場所に行き、彼らを"誘導"することで、一度に複数のユーザー獲得も可能になる。

参考: 【AIをWebサービスに活用】Airbnbはどのように人工知能を活用しているのか?

購入側ユーザーに最適な体験を提供することにフォーカス

提供側のユーザー獲得が一段落したら、次は購入側ユーザーに対してより良いサービスを提供する為の施策を行なう。Airbnbの場合、ユーザー自身が撮影した為に、掲載された物件の写真のクオリティが低く、ホテルのサイトと比べると見劣りするため予約率が上がらなかった。そこで、ファウンダー達はプロのカメラマンをホスト物件に出向かせ、高クオリティの写真を撮影。かなり地道な方法出るが、それが一つのスタンダードとなり、その後ユーザーによって掲載される写真のクオリティが格段にアップした。これにより利用ユーザーの体験レベルがアップしたのだ。

参考: 【AIをWebサービスに活用】Airbnbはどのように人工知能を活用しているのか?

Uberは元々リムジンとユーザーを繋げるサービスだった

Uberにも同様なケースがある。今でこそ一般の人が自分の自動車でUberドライバーとしてのサービスを提供しているが、サービスリリース時には、提供側は"Black Car"と呼ばれるプロのドライバーが運転する黒塗りのリムジン車両だけであった。意図的にそうする事でユーザー体験が最大化され満足度も高まった。同時に利用者からのポジティブなクチコミも広がった。それにより多くの利用ユーザーを獲得した後にUber XやUber Poolといったリーズナブルなサービスの提供を開始したのだった。

参考: Uber ファウンダー Travis Kalanick 驚異の失敗歴

Etsyもまずは高品質のプロダクトを集める事から始めた

Etsyの場合でも最初は掲載する商品のクオリティにとことんこだわった。アメリカ各地で開催されているクラフト関係のイベントやトレードショーに積極的に参加し、品質の高い手作り商品を提供している人々だけにアプローチ。彼らの製品をオンラインでも売り出す事により、自ずとEtsy=高品質のイメージを作り上げ、購入する人からの満足度アップと、掲載する商品の品質スターンダードの向上を図った。

供給が足りていない場所とタイミング=ニーズの最大化ポイントを狙う

世界の複数の地域に広がるUberとAirbnbのサービスであるが、リリース時には地域を戦略的に限定して提供を開始した様だ。加えて、タイミングとしても外的要因を大いに考慮している。

Uberの場合はタクシーの供給が足りない地域を最初のターゲットとして提供を開始した。また、プロモーションのタイミングとしても多くの人々が外出、移動をする祝日の時期や、大きなコンサートやスポーツイベントがある際に集中的に行なった。それにより、ユーザーからのニーズが高まっているので、Uberという聞いた事の無いサービスでも試してもらえる可能性が高まる。

これによりUberは短時間で多くのユーザーのピンポイントでの獲得に成功した。資金に限りのあるスタートアップにとっても費用対効果が非常に高い戦略である。また、そもそもニーズに合致しているサービスであるので、自然と顧客満足度も高まりやすい。結果的に、満足したユーザーがクチコミでサービスを広げ、より多くのユーザーが集まって来たのである。

Airbnbの戦略も同じである。2008年のサービスリリース時はコロラド州デンバーで開催された大規模コンベンションに狙いを定めた。例年多くの来客でホテルが足りなくなる事が分かっていたので、その場所とタイミングに当て込んでのプロモーションを展開。そもそもホテルはソールドアウトの状態であるので、ユーザーにとってはありがたい存在。加えて、ホテルから客を取る事にはならないので、ホテル業界からライバル視される事も無い。

しかし、一度ユーザーがAirbnbのサービスを利用すればその魅力を知り、リピーターになる。次から次へのユーザーが集まり、ホテル業界が脅威として認識する頃には手遅れという仕組みだ。

このようにスタートアップのサービスがユーザーニーズが最も高い場所とタイミングを狙う事にはもう一つ大きなメリットがある。リリース直後のサービスはバグや不具合、不手際がつきものである。しかし、高いニーズに対してのサービス提供であれば、多少のミスに対してユーザは寛容になってもらいやすい。道を間違っても目的地にちゃんと辿り着ける、タオルが多少足りなくても宿がある事が最重要のユーザーから大きな苦情が出る可能性が低くなるのである。

参考: スタートアップ初期に重要ではない20の項目と最も重要な2つの事

まとめ: 人気サービオスもスタート初期にはお金よりも戦略でユーザーを獲得

上記の様に現在ではグローバル規模に利用されているサービスでも、リリース初期には綿密な戦略を元にピンポイントで特定のユーザーを狙い撃ちし、彼らの満足度を最大化する。その後、ユーザーがユーザーを呼び込む仕組みを元に急激にグロースを掛けた事が分かる。そこには大規模で派手な広告展開よりも、かなり考え抜かれた施策が存在する。

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.