インターネット上で特定対象に批判や非難が殺到する現象を指す「炎上」。近年は新聞やテレビでもよく報じられ、社会現象と化している。だが実際のところ、どれほどのネット利用者が、どんな形で炎上に関わっているのだろうか。計量経済学者2人が、大規模アンケートを用いて初めて実証分析を行った異色テーマの学術書『ネット炎上の研究 誰があおり、どう対処するのか』(勁草書房)が注目されている。(磨井慎吾)
スーパーのアイスケースに人が入った写真をSNS(会員制交流サイト)に投稿した専門学校生、豪華な見本写真とかけ離れた貧相なおせちの通販、東京五輪エンブレムに端を発した盗作疑惑の追及、胸を強調した観光用「萌えキャラ」の公認撤回……。平成23年ごろから急増し、近年は年間400件程度が発生している炎上事件。企業不祥事の追及や反社会的行為の抑止などの評価すべき面もあるが、個人への度を過ぎた私刑的攻撃や、意見が分かれる政治的・社会的問題についての議論を萎縮させてしまうなど、悪影響も指摘されるようになった。
著者の山口真一・国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師は、「炎上を恐れるあまり、ネット上での自由な情報発信をやめてしまう人は少なくない。ネットの一番の魅力は誰でも自由に情報の発信や共有ができるという点にあるのに、大衆自らがその自由を規制してしまっているのではないか」と、研究の背後の問題意識を語る。激しい個人攻撃や罵倒が飛び交う炎上状態になると、議論の空間から中庸な意見の持ち主が撤退してしまい、自己の正しさを確信した左右両極の強い意見の人々だけが残りがちになってネット上の議論の劣化を招いてしまうからだ。
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