「ゆめかわいい」という言葉をご存知でしょうか？

文字通り「ゆめみたいにかわいい」という意味で、近年ではTVの情報番組で取り上げられることもありますが、具体的にどんなスタイルなのか、ピンと来ていない人も多いのではないでしょうか。

「ゆめかわいい」はファッションの新たなジャンルとして使われる言葉で、パステルカラーを基調にした、ユニコーンやペガサス、星空、天使の羽、アニメの魔法少女etc……。統一感があるようで無い、なんとも言語化しにくいファッションなのです。

TV等での取り上げられ方をみて「ああ、また突飛な格好をした若者がおもしろおかしくとりあげられているなあ」と思うかもしれませんが、「ゆめかわいい」は、インターネット上がストリート化した特有の、新しいかたちのガールズカルチャーだと筆者は考えています。

文／藤谷千明

「ゆめかわいい」の発端はひとりのモデル

90年代後半のコギャルファッションは『egg』や『Cawaii!』といったギャル雑誌から、ゼロ年代の『CanCam』を中心とした赤文字系OLファッション、『小悪魔ageha』のキャバ嬢ファッションにせよ、ストリート（現場）〜雑誌（メディア）を媒介に全国区になっていくのがセオリーでした。

ところが、「ゆめかわいい」はメディア主導ではなく、発端はひとりのモデルだといわれているのです。

原宿系モデルのAMOさんが、2013年4月頃から「ゆめかわいい」という概念をブログで使用し始めます。AMOさんは、アンニュイで幻想的なアイテムを「ゆめかわいい」と形容しています。

shu uemura の春の限定コレクションが
ゆめかわいい！

obとのコラボレーションパッケージが、なんともドリーミーですてきです。

クレンジングオイル、4種類の化粧下地、リップやアイラッシュ、カスタムケースなど、
月姫・海姫・桜姫・緑姫 と名付けられたおんなのこたちが描かれたコスメたち。
AMO オフィシャルブログ「AMOSCREAM」http://ameblo.jp/aplus--amo/entry-11506555479.html（2013年4月7日「ob for shu uemura」）より一部抜粋

2013年4月に更新されたブログでAMOさんが「ゆめかわいい」と紹介したのは、コスメブランド・shu uemuraとイラストレーター・obさんのコラボパッケージ。サブタイトルに「夢と現実のはざま」とあるように、可愛らしい少女をとりまくファンタジックな雰囲気が印象的です。

続いて2013年5月のブログでは、雑誌『LARME 004』のAMOさんによる特集ページで「ゆめかわいいことしてます」と綴っています。

ところが特集ページをみると、ブランド・MILKをフィーチャーした幻想的なファッションページになっていて、「ゆめかわいい」という言葉は使用されていませんでした。

このことから、「ゆめかわいい」は雑誌が提唱したのではなく、AMOさん個人の概念から生まれたものだということがうかがえます。

「ゆめかわいい」はどのようにして広がったのか？

この「ゆめかわいい」という概念は、最新の急上昇ワードが確認できる「Google トレンド」をみると、、2013年～2014年あたりから急速に拡散されていったようです。

AMOさんがブログで使い始めた「ゆめかわいい」。一体、どのように広がっていったのでしょうか？

まず、スマートフォンアプリでの画像加工が若者にとって身近な存在になっていたこともあり、「プリ画像」のような、10代が使用するスマートフォンの待受画像共有サイトや素材サイトで「ゆめかわいい」という概念が広がっていきました。

そして、次に「ゆめかわいい」を広めたのは、「ハンドメイドアクセサリー」でした。

「プリ画像」のような素材サイトでの画像加工と比べて敷居は高いですが、10年代に入って急速に普及したUVレジン（注：簡単にいうと紫外線で固まる素材）により、透明感のある立体的なアクセサリーを容易につくることができるようになりました。

ハンドメイドというとビーズや編み物のイメージもありますが、UVレジンを使えば、お金のない若い人や学生でも「ハンドメイドアクセサリー作家」になることができます。

画像素材サイトで広がった「ゆめかわいい」が、今度は若い感性を活かした「ゆめかわいいハンドメイド」作品としてアクセサリー化し、やがて、BASEやminneといったCtoCのECサイトや、プロアマ問わず参加できる「デザインフェスタ」などのイベントに出展していきました。

また、かつてなら洋裁技術が必須だったであろう「オリジナルの洋服」も、近年の印刷技術の発展により少ロットでもオリジナルプリントのTシャツやタイツ、スウェットなどを制作することが可能になったことも、「ゆめかわいい」のブームに影響を与えています。

こうして3次元化されたことで「ゆめかわいい」アイテムを手に入れた女の子たちは、InstagramやTwitterといったSNSにアップしていき、「ゆめかわいい」はどんどん拡散していきました。

同じようにSNS（mixiコミュニティ）からはじまったゼロ年代の「森ガール（「森にいそうな女の子」をテーマにしたファッション）」ブームに比べて「ゆめかわいい」ムーブメントが大人には見えにくかった原因として、まず若者向けの素材サイトやハンドメイドを中心としたインディーズブランドを引っ掛けに拡散したという経緯ががあると筆者は考えます。

WEGO、メンヘラチャン、病みかわいい？

しかしこれまで大人の目には届かなかった「ゆめかわいい」も、2015年に入ると様相が変わってきます。

雑貨チェーンのSWIMMERやサンキューマートでも「ゆめかわいい」パステルカラーのグッズが増え、2015年7月には、原宿系古着ショップチェーン・WEGOの心斎橋店と原宿店で、ゆめかわいいメイド作家やクリエイターを集めた「ゆめかわいい展」が開催。ガールズカルチャー界の重鎮・米原康正氏がプロデュースする『WEGOゆめかわBOOK』という冊子が無料配布されました。

『WEGOゆめかわBOOK』の冒頭には、「ゆめかわいい」の説明がこう綴られています。

メルヘンで幻想的で可愛くてフェアリー＆少し闇
夢みたいにかわいい
過剰な少女性
ツインテール
とっても甘いお菓子
物憂げな表情
パステルな少女の夢
ユニコーンやくまさんのぬいぐるみ
米原康正『WEGO ゆめかわ BOOK』（2015）P2，WEGO（ウィゴー）．より一部抜粋

……なるほど、わからん。

というのは冗談ですが、たしかにどれも「ゆめかわいい」ですが、逆にどれも決定的な言葉ではないように思えます。

加えて、モデルやDJ、ゆめかわバンド・ストロベリー症候群などで活動する苺りなはむさんが「メルヘン＋病み＝ゆめかわいい」と定義するようになってから、TVで取り上げられることも増え、さらに”わかりやすく”ブームが加速していきます。

ゆめかわいい提唱者による「ゆめかわ祭」チケット完売　重大発表も

メルヘンで可愛いものに少し病んだ要素を含んだ、メルヘン+病み＝「ゆめかわいい」を提唱する苺りなはむさんがプロデュースするイベント「ゆめかわ祭」が4月23…

kai-you.net

また、「病みかわいい」という派生概念もあり、江崎びす子さんの手によって生まれたキャラクター・メンヘラチャンがその代表格とされています。こちらも最初に発表されたのはTwitter上でした。

このキャラクターは若者に人気の雑貨屋・サンキューマートやメイド喫茶・めいどりーみんとコラボするなど、”インターネットの人気キャラ”の枠を越えつつあります。

場所を横断し、人を選ばない「ゆめかわいい」

こうして形を変えながら広がった背景には、「ゆめかわいい」が持つ場所に左右されないという特徴が挙げられます。

かつてはギャル系は渋谷、青文字系は原宿、age嬢は歌舞伎町や大阪ミナミなどの繁華街、その土地のイメージがついてまわっていたと思います。しかしながら「ゆめかわいい」にはそれが感じられないのです。

TVでは原宿カルチャーとして取り上げられることが多い「ゆめかわいい」ですが、たとえばゆめかわハンドメイド作家やデザイナーの作品を多数扱うCandy syrup（キャンディーシロップ）は下北沢に店舗があり、雑誌『KERA』の連載「サブカルかわいいJP」から派生したショップ・KAWAII MAKERbyKERAは渋谷PARCOにて限定ショップを出店しています。また、「可愛いお洋服屋さん(仮)」のように、特定の店舗を持たずネットショップのみというケースも多いのです。

?新発売?
てんしのはねシリーズ✡夏❤https://t.co/QgP4jdigew
人気のシリーズの夏バージョンが登場です?妄想中毒✡ラベンダー、恋夢幻想✡ベビーブルー、魔界転生✡ブラック＋新デザインのハートの恋愛禁止♡ピンク? pic.twitter.com/M5f7vEMdWA

— 可愛いお洋服屋さん(仮)@ゆめかわいい♡ (@idol_theshop) 2016年7月13日

場所に左右されないことから、「ゆめかわいい」を愛好する女の子たちのクラスタもバラバラです。

先述の『WEGOゆめかわBOOK』に掲載されている女の子たちをみると、藤田ニコルさんや越智ゆらのさんなどの『Popteen』のモデルから、BiSHやゆるめるモ！などのアイドルまで、クラスタに左右されていないということが伺えます。

最近では、あのギャル雑誌『Popteen』4月号でも「ゆめかわいい」特集が組まれ、越智ゆらのさんが表紙を飾る『Popteen』8月号も、かなり「ゆめかわいい」テイストになっています。



場所、そして人を選ばない「ゆめかわいい」は、さらに新たな境地へと走り出します。今年1月、バンダイの女の子向けお菓子シリーズ「まほうのルミティア」という商品のキャッチコピーに「ゆめかわいい」が使用されたのです。

これは、いよいよ「ゆめかわいい」が市民権を獲得したと言える出来事だと思います。

女の子が大好きな「キラキラ」と「ゆめかわいい」が詰め込まれたコレクションアイテムシリーズ「まほうのルミティア」。シリーズ第1弾の「ルミティアステッキ」が登場☆
YouTube「バンダイ公式チャンネル」まほうのルミティア 動画概要欄より

また、9月10日（土）・11日（日）には、サンリオピューロランドでも、Caramel*Ribbon（キャラメルリボン）など、多数の「ゆめかわいい」系のインディーズブランドを集めたイベント「Puro Kawaii Festa」の開催が発表されています。

雑誌が生み出したブームではなく、インターネットからリアルな3次元へと飛び出し、拡散の一途をたどる「ゆめかわいい」カルチャー。今後、どんな展開を迎えるのでしょうか。

関連リンク

• 画像★検索プリ画像 - プリキャン革命!
• PURO KAWAII FESTA | 観る | サンリオピューロランド
• まほうのルミティア Luminary Tears