「障害者を抹殺する」。植松聖容疑者は今年2月、東京都千代田区の衆院議長公邸を訪れると、今回の凶行を示唆するような大島理森(ただもり)衆院議長宛ての手紙を警戒中の警察官に渡していた。精神保健福祉法に基づき強制的に入院させる「措置入院」となり、尿と血液から大麻の陽性反応が確認された。だが、12日後の3月2日には退院。“犯行のサイン”は行政や医療機関の間で生かされることなく、凶悪な事件が起きてしまった。
警視庁などによると、植松容疑者が大量殺人を予告する手紙を持参したのは2月14日午後3時25分。翌日も再び訪れ、公邸の正門前に座り込み、しばらく立ち去ろうとしなかった。A4のレポート用紙に手書きで書かれた手紙には、標的の一つとして現場となった障害者施設「やまゆり園」を名指しした上で、「私は障害者総勢470名を抹殺することができる」「目標は重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です」と書いていた。
◆大麻の陽性反応
「重度の障害者は生きていてもしかたない。安楽死させた方がいい」。相模原市などによると、植松容疑者は18日、勤務中に同僚職員にそう口走った。翌19日、神奈川県警津久井署の事情聴取に対し、「大量殺人は日本国の指示があればやる」旨の発言があった。警察から連絡を受けた市の職員が同署に出向いて面接したところ、他害の恐れが強いと判断。指定医が措置入院の必要があると診断、入院が決まった。
措置入院は、2人以上の指定医が診断し、都道府県知事や政令市の市長が決定するが、事実上、指定医の診断が採用されることがほとんどだという。だが、退院は指定医1人が「自傷他害の恐れがない」と診断すればよいと定められている。さらに、退院した後のケアについて定めた法律や制度はなく、厚生労働省の担当者も「退院後の特段の措置はない」と話す。
措置入院となった植松容疑者は、尿から大麻の陽性反応が出た。奇行は大麻使用による精神、行動の障害などと診断された。だが、症状が改善し、植松容疑者が反省の言葉を口にしたため、「他人に害をなす恐れがなくなった」と判断され、入院から12日後の3月2日には退院していた。
◆退院後把握せず
これら一連の過程で相模原市は、植松容疑者から大麻の薬物反応が出たことについて、警察や当時の勤務先だった障害者施設に報告していなかった。同市の担当者は「届け出の義務はないので届け出ていない」としたうえで「退院後の動向は一切把握していなかった」と説明している。
植松容疑者は昨年6月にも、東京都八王子市内で男性とけんかとなり、この男性にけがを負わせたとして警視庁八王子署が傷害容疑で書類送検した。さらに犯行直前の今月25日には、相模原市内の飲食店で定位置からはみ出して駐車していた車が植松容疑者のものと判明。警察が本人を呼び出して車を引き渡していた。
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