文/後藤和智(同人サークル「後藤和智事務所OffLine」代表)
日本社会「右傾化」論の実像
日本社会の「右傾化」「保守化」ということが言われて久しくなっています。
例えばここ数年で、「ヘイトスピーチ」(憎悪扇動)や「レイシズム」(人種差別)が問題として採り上げられることが多くなりました。そのような動きを懸念して、2016年5月24日には、自民党や民進党などの賛成多数で「ヘイトスピーチ解消法」が成立しています。
民族的、社会的マイノリティに対して扇動される憎悪について、政治を含めた日本社会全体で取り組んでいく、という姿勢が鮮明になってきています。
保守派として知られる自民党の西田昌司議員も、この法案の成立に寄せて《ヘイトスピーチをする方は、ただちに国会が許さない(という意志を示した)。ヘイトスピーチするなどという考えは、直ちに捨てて頂きたい》とコメントし、公明党の矢倉克夫議員も《まずはヘイトスピーチ、恐怖にかられている方々にしっかり国の意志を示すことを早急にやらなければいけない》と述べています1。
この法案には問題点がいくつか指摘されているものの、これを皮切りに、様々な社会階層に対する憎悪の扇動はいけないことだと考える必要があるでしょう。
このように政治的な動きが整っていく一方で、他者に対する差別扇動はいまだに続いていると言わざるを得ないのが現状です。
例えば「保守速報」などのような、我が国の民族的マイノリティや政治的な左派勢力、あるいは近隣諸国に対する攻撃や嘲笑の扇動を目的とした(と言わざるを得ない)まとめサイトが多くのPV(ページビュー)を集めるほか、「はちま寄稿」「ハムスター速報」などの主要なまとめサイトもまた同様の記事を掲載して支持を集めています(特に「ハムスター速報」に関しては、2012年に片山さつき議員が「ハム速を守ろう!」という発言をして話題になったことがある)。
またツイッター上においては、左派勢力を嘲笑してリツイートやフォロワーを集める論客も少なくないように見えます。
近年になって、日本社会の「右傾化」論はヘイトスピーチの解消などの具体的な社会の改善活動と繋がるようになってきました。
しかし、それまで語られてきた「右傾化」については、その実像を捉え損ねたと言わざるを得ないというのが私の見立てです。そしてそれが、我が国のヘイトスピーチなどへの対策を遅らせてきたのではないか、とも思えます。
今回は、「右傾化」論がどのように我が国の社会を捉え、そして捉え損ねてきたかについて見ていきたいと思います。
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