相模原市の障害者施設殺傷事件では、大量殺人を示唆する植松聖容疑者(26)の発言を行政や警察が把握しながら、事件を未然に防ぐことはできなかった。2月には「他人を傷つける恐れがある」として強制的に入院(措置入院)したものの、2週間弱で退院。精神科医療における診断の難しさが浮き彫りになった。
措置入院は精神保健福祉法に基づき、精神疾患のため自分や他人を傷つける恐れがある患者を本人らの意思と関係なく、行政が強制的に入院させる制度。厚生労働省によると、2013年6月末時点の措置入院の患者数は約1600人。
2人以上の精神保健指定医が「自傷・他害の恐れがある」と判断することが条件で、入院期間に定めはない。指定医が「入院の必要がなくなった」と診断すると、病院が自治体に「症状消退届」を出し、都道府県知事らが退院を決定することが多いという。
退院は指定医1人が判断すれば可能だ。ただ関東の病院で働く指定医は「精神科医療において百パーセント退院して大丈夫という判断は難しい。患者と話し、言動などから判断するしかない」と判断の難しさを語る。
措置入院は患者の同意を得ない入院のため、患者団体や専門家から人権上の問題を指摘されている。指定医は「医師は人権に配慮し、最短で退院させる道を探っている」という。
今回の容疑者が2週間ほどで退院したことについて、患者を支援する関係者は「入院は月単位が多いが、短いことも珍しくはないのではないか」とする。一方で「容疑者の状態は分からないが、もう少し様子を見てもよかったのでは」と首をかしげる指定医もいる。
指定医である東洋大学の白石弘巳教授(精神医学)は「措置入院からの退院判断は答えがない。永遠の課題だ」という。そのため「今回の事件で指定医が慎重になり、入院期間が不必要に長引き、患者の利益を損なうことが生じるかもしれない」と懸念する。
措置入院から退院した後は任意で入院したり、家族同意による医療保護入院となることもあるが、通院のみの場合もある。白石教授は「入院はあくまで一時的な対応。退院後も精神疾患の患者が地域に出て暮らせるような仕組みを作ることが重要」と指摘している。