古本屋のワゴンに積まれていた『グリーンヒル』全3巻を衝動買い。
稲中の人だ、くらいの軽い気持ちで買ったのに不覚にもラストで泣きそうになってしまった。
相変わらずの変態モノ、出てくるのはハゲでデブで胸毛ボンばかりの漫画なのに。
屋根の上の宇宙人を裸で追いかけ川流れする不思議ワールドなのに。
主人公、大学生の関口は「人は生きながらにして腐る」を実体化したような男。夕方まで眠り、また眠り、目的もなくグータラ過ごしている(おへその下にカビも生えている)。
そんな彼が物凄い美女に恋をして、彼女と同じバイククラブ『グリーンヒル』に入りバイクの免許を取るのだが…、というストーリー。
稲中卓球部を読んだことのある人なら分かって頂けると思うのだがバイククラブに入ったからと言ってバイクの話はそんなにない。
最終巻3巻に至ってはバイクの登場する話は1話くらいしかない。
憧れの美女もそんなに出てこない。
目標もなく、腐っていた関口が変わったのかといえばそうでもない。
ばかさわぎして、楽しくて。でも朝起きたらあれ、俺はなんで笑ってたんだっけ?と忘れてしまうような些細な日々の記録。
稲中好きだったなぁ。
高校の時って、毎日あんな感じだったよなぁ(あそこまでお下劣じゃないけど)。
そんな彼らのくだらない日々にもやがて変化の日が来る。
バイクチームのリーダー(ハゲでデブで胸毛ボンで32歳無職)に結婚を誓う相手が出来たのだ。ただし相手は高校生なので、大学を卒業して獣医になるまで5年待ってくれ、と言われる。
リーダーは5年は無理だぁ!と号泣し川流れしてしまう。
『俺は何十年だって待てる、でも君は無理だ。
大学入学、夢にまでみた一人暮らし!合コン合コン流されて付き合って出来婚だむははははは!』
リーダーは流れていく。桜の花びらの浮かぶ(なぜか無駄に美しいシチュエーション)川をプカプカと。
学生時代の5年間はすごく長く感じる。
5年後の自分なんて想像もつかなかった。
今は割と、現在の延長線上に5年後があるんだろうなぁと感じる。
あの頃遠かった5年が近い。
大人になることが怖くて、それでも憧れていたあの頃夢見た5年後はピカピカしていた。
大人になった私の5年後。
家も職場も自分自身も少しづつ老朽化してるんだろうな。
でも毎日眺めているから多分そんなに気にならない。
昔の写真を見て若かったな~、と笑うくらいか。
5年を長く感じるか、短く感じるか。
年を取れば取るほど、経験が増えれば増えるほど一年は短くなっていくのかも知れない。
怠惰でいい加減な主人公、関口のセリフもけっこう刺さる。
ヒマで腐りかけてるやつに限って「人生」とか「生きる目的」とかたいそうな事を考えちゃうだろう?
別に誰も何もしていないのに…
誰もお前なんて見ちゃいないのに…一人で勝手にいじけてるだろう?
僕は社会から必要とされているのだろうか?
んなモン知るかぁ~~!お前なんていらんのじゃ~~!
世の中こんなに便利になってんだ!自分のことぐらいちゃんとしなさい!
そして低姿勢で世間に歩み寄りなさい!
怠惰な関口にとって人生最大の敵は『めんどくさい』である。
関口は言う。
「人類最大にして最強の敵『めんどくさい』に打ち勝ち立派な大人になりたいなぁ~」と。
私も思う。大人にはなったけど、あの頃想定してた『立派な大人』になれたのかなぁと。
大人になってもやっぱり最強の敵は「めんどくさい」で、せっかく時間の空いた休日でも気がついたらソファに寝転んで漫画を読んで一日が終わってしまう。
本当は久しぶりにケーキを焼いて、庭の除草もしたかったのに。
でもまぁいいか。
漫画はちょっぴり泣かせてくれたし、読み終わった後慌てて作った晩ごはんは好評だった。寝る前にお気に入りのサマーニットの毛玉も取った。
関口もそうなんじゃないのかな。
めんどくさい、とか言いながらバイクの免許は取ったし(バイトが面倒でバイクは買えてないけど)憧れの美女とは付き合えなかったけどなぜかしっかり者の彼女が出来た。
めんどくさい、と思いながらも少しずつ人は前進していく。
小さな一歩が積み重なって、5年後には結構前に進んでいるのかも知れない。
もちろんすごーく頑張ってる人には敵わない。
もっともっとやれることがあるんじゃないか、と日々思う。
でもまぁ、快適なソファの上でごろ寝しながら読む漫画も、人生にはいつか価値をもたらすんじゃないかって。
関口たちの日々も、無駄にはならないんじゃないかって。
怠け者の私は、そんな風に思うのでした。