toddleから実に5年ぶりとなるニュー・アルバム『Vacantly』が届いた。そして、この5年の間には、バンドにとってとても大きな出来事が2つ起こっている。ひとつは、長らく活動を共にしてきたドラマー・内野正登の脱退。もうひとつは、過去の作品にプロデューサーとして関わっていたbloodthirsty butchersの吉村秀樹との別れである。一人ぼっちでいる時の寂しさと安堵感の同居、仄暗い暗闇から薄明りを見つめているような感覚はtoddleの特別な魅力だが、『Vacantly』でその陰影の濃さが増しているのは、決して偶然ではないだろう。
バンドは、内野の代わりにSiNEの竹田和永をサポート・ドラマーに迎えてライヴ活動を続行。これまでになく幅広いリズム・パターンなど音楽的な冒険心に溢れ、勇壮な雰囲気を纏ったアルバムをついに完成させた。今回は課外活動も多かった田渕ひさ子に、この5年を振り返ってもらいつつ新作について話を訊いた。
ギター・プレイにおいてはブッチャーズから受けた影響が大きい
――実に5年ぶりのアルバムが完成しました。
「作ろう作ろうと言いながらズルズル延びて、5年経っていた感じです……マイペースも甚だしいですね(笑)」
――もちろん、この間もライヴ活動は続いていましたし、メンバー・チェンジをはじめ、いろいろなことがありましたよね。ひさ子さんは個人でたくさんのライヴやレコーディングにも参加されていましたし。
「やってますね、相変わらず。そういう場を与えていただけて嬉しいです。ライヴやレコーディングに誘っていただくのは、よほどスケジュールに問題がない限りは、ほとんどお断りしたことがないので」
――では新作の話の前に、この5年間の課外活動について訊かせてください。toddleの前作『the shimmer』(2011年)が出たタイミングにLAMA※が始動して、その後はナカコー(Koji Nakamura名義)さんのソロのバンドでもギターを弾かれていますね。
※田渕に加え、フルカワミキ、中村弘二、牛尾憲輔から成るバンド。これまでに『New!』(2011年)、『Modanica』(2012年)という2枚のアルバムをリリースしている
「ナカコーさんは人間的に尊敬しているし、生き物としてものすごくおもしろい人で(笑)。ブレがないというか、テンションが一定というか、でもすごくいろんな曲を作るじゃないですか? ナカコーさんを一つのところに限定できない、みたいな(笑)。ナカコーさんの曲でギターを弾かせてもらう時は、〈ああ、いいっすね〉とかざっくりした感想だったりする。ライヴのリハでも〈あ、そんな感じで〉と、細かく言わないタイプの人なんです」
――作り込まれた音源とライヴは別ものとして考えている印象があります。
「そうですね。プレイは結構任せてもらっているんですけど、ナカコーさんがメンバーを選んだ時点で頭の中に〈どういう感じになる〉というのがあるのか、自由にやらせてもらっても、そのまとめ方が上手なんです。ナカコーさんはたくさん音楽を聴いているから、答えというか、いろんなパターンの着地点があるんだと思うんです。膨大な知識のなかに多くの落としどころがあるから、関わる人は自由にやらせてもらえる。そこはすごいなと思いますね」
――曲調の幅が広いぶん、プレイヤーは大変そうな気もしますが、そうではないんですね。
「ライヴの時も、フレーズも含めてもちろんやることは決まってるんですけど、ちょこちょこグレーなゾーンがあるので、そこがライヴをやってて楽しいところですね。ナカコーさんはインプロもやっているから、彼のギターもその日によって違ったりするので、一緒にやっていて楽しいです」
――レコーディングに関しては、吉澤嘉代子さん、大森靖子さん、黒木渚さんといった個性的な女性ソロ・アーティストの楽曲にも参加されていますよね。
「みんなそれぞれの方向に尖がってる人たちですけど(笑)、吉澤嘉代子さんも黒木渚さんも、まず歌がすごいですよね。自分のギター・スタイルとして、目立ったことをしている印象を与えることがあるかもしれないですけど、自分としては歌を立てたいんです。自分がその曲を弾くことによって、もっと曲がカッコ良くなったらいいなというのが大前提でギターを考えるので、〈この曲をもっと掻き回してやろう〉とか、そういう感じではないんです。大森靖子さんの時はミトくんがプロデュースした曲だったんですが、ミトくんがその曲を作って、デモに自分でギターを入れた時に、〈これはひさ子ちゃんだな〉と思ったらしくて。実際のレコーディングも〈流石、来ました!〉みたいな、すごく楽しい現場でした(笑)」
――あと最近ではギターが脱退したBase Ball Bearのライヴにサポートで参加されています。彼らは昔からナンバーガールからの影響を公言していたバンドで、そこにひさ子さんご自身が参加されるというのは、不思議な経験だったように思うのですが、いかがでしたか?
「そうですね……最近のバンドの曲はコードが1小節に2回も3回も変わるので、私は頭がパンパンになりました(笑)。それは世代によるものなのかなと思って。自分たちも昔は年上の人に〈曲が忙しい〉って言われていたから、〈ヤバイ、私も歳取ったな〉と。でも、ヴォーカルの小出(祐介)くんはとても真面目な人なんだろうなと思いましたね。半端じゃない感じが出ていて、〈これくらいでいいでしょ〉ではなく最後の最後まできっちり曲を作っているんだなと思って、尊敬しました。曲に照れとかそういうものがない。俺はこう、という形を100%で臨んでいる感じがして、いいバンドだなと思いましたね」
――実際のプレイに関しては、どんなやり取りがありましたか?
「もともとギターの方がいらしたので、観に来ているファンの方のことをすごく考えました。がっつり私の色に変えちゃうと、観てるほうは〈?〉ってなるだろうし、自分がお客さんの立場で考えても、それはちょっと違うなと。それに私は完コピを敬意だと思っているので(笑)、まずはそこから……とはいえ、自分がお願いされたことに対しては自分なりにきちんと応えたい気持ちもあるので、随所でアレンジもしました。ただ、さっきも言ったように、すべてのフレーズがよく考えられているのがわかるので、むやみに崩そうとはまったく思わなかったです」
――2014年はナンバーガールのメジャー・デビュー15周年イヤーで、アルバムのリマスター盤のリリースなどがありましたが、ひさ子さんご自身もバンドのことを振り返るタイミングはありましたか?
「うーん……あんまりないかな(笑)。ここ1~2年で、自分のiTunesにナンバーガールを入れましたけど(笑)」
――逆に言うと、それまでは入ってなかったんですね。
「まったく聴いてなかったですね。そこに特別な意味はないんですけど、久々に聴いたら〈すげえな〉と思いました。極端なんだけど、でもそれがカッコ良くて、時代やバンドがその時に纏っていた勢いとか、いろんなことが関係してるんだろうなと。〈よくやったな、これ〉みたいなこともあるけど、ナンバーガールじゃないとできなかったなと思ったり……やっぱり個性的なバンドだったんですね(笑)。車で聴いたりしても、ハットの音がシーシーシーシー言ってて、〈こんなデカイ?〉と思うけど、それができたのはあのバンドだからで、やっぱりすごい」
――ブログを見返していたら、2013年のtoddleのライヴを向井さんが観にきて、〈かつての鬼コーチが客席に見え、背筋が伸びました〉と書いてあったのが印象的でした(笑)。
「超鬼監督ですよ(笑)。でも、(ナンバーガールの)リイシューのタイミングで改めて対談をした時に、あんなことやこんなことを言われたと当時の話を私がしたら、〈マジで? 俺そんなこと言った?〉とあんまり覚えてなかったみたいで、〈ホントすいません〉みたいな感じでした(笑)。まあ、福岡から東京に出てきて、CD出して、ライヴやって、レコード会社とかいろんなものと向井くんは戦っていたと思うので、ずっとある種の興奮状態だったのかなと。でも、あの鬼コーチがいなかったら、いまみたいにいろんなところでギターを弾かせてもらえることもなかったとだろうし。向井くんの後には吉村(秀樹)さんという鬼コーチが続いたので、私はもうどこででもやれるんじゃないかと思います(笑)」
――日本のオルタナ・シーンでも最上位にいる鬼コーチ2人ですもんね(笑)。吉村さんのことも改めてお伺いしたいのですが、吉村さんの存在はひさ子さんの音楽人生にどんな影響を与えましたか?
「ギター・プレイで言うと、ブッチャーズから受けた影響は大きいですね。ナンバーガールの時はきっちりかっちり、〈こうじゃなきゃ〉とすごく気を張っていた。でも周りはみんな九州男児で、私の言うことなんてひとつも聞いてくれない人たちだったんです。でもブッチャーズは、吉村さんのタイプ的に〈はっきりするのがイヤ〉みたいなところがあって、例えばギター2本のやり取りでも、〈Aメロの1小節目、どうします?〉〈ここの絡みはミで〉とか、そういう話がイヤというか、グレーなんですよね。ブッチャーズのもうお二方もそうだと思うんですけど、吉村さんの一言一句、言動ひとつひとつをずっと見ていて、何を欲しているか、何を次にしようとしてるのかを3人が汲み取るんです。だから、向井くんは何でもストレートにモノを言う人なのに対して、吉村さんはわりとフワフワしているので、極端なところから極端なところに行った感じでしたね(笑)」
――toddleはどちらのタイプなんでしょう? どちらかというと、ブッチャーズ寄り?
「どうかなあ……toddleはわりと合理的というか、曲のことで言い合いになったりはしないんです。toddleのメンバーは個性が強いというか、私もその人を頭に思い浮かべてフレーズを考えたりするので、弾いてくれた時点でその人のものになっている部分もあるし、だから……toddleは大人のたしなみのような(笑)。ブッチャーズはもうちょっと〈このバンドでやるぞ〉みたいな感じだけど、toddleはとてもマイペースですね(笑)」
自分の身に起こったいろんなことを、曲を作る作業によって乗り越える
――2013年に吉村さんが亡くなられて、当時はひさ子さんも非常に辛かったかと思います。そんな時期をいかに通過して、今回のtoddleのアルバムに辿り着いたのでしょうか?
「いろいろ大変ではあったんですけど……だからってライヴを減らしたり、止めたりとかはしていなかったので、自分的にはずっとやり続けていたと思っているんです。ブッチャーズのスケジュールがいきなりなくなったので、だいぶ暇になったというか(笑)、時間は出来ましたね」
――歌詞を読むと内省的な部分が目立ちますが、闇の中から光を見い出そうとする雰囲気は、これまでの作品にもあったと思います。ただ今回に関しては、曲を作ることが自分で自分の背中を押すような作業でもあったのかなと。
「暗さに磨きがかかったとは思います(笑)。これまでのどのアルバムも歌詞は暗いというか、後ろ向きではないんですけど〈一人ぼっち感〉は一貫してあって。作詞なり作曲なりをする人には、どこかそういう部分がある。自分の身に起こったいろんなことを、曲を作る作業によって整理されて、乗り越えるというのはあると思います」
――〈閉ざされた深い闇の底〉と歌う1曲目の“Disillusion”で始まって、〈暗闇 照らすよ〉と歌うラストの“Illuminate”で終わるという曲順からして、深いところから始まって、光が射すところに抜けて終わるような印象を受けました。
「“Disillusion”が出来て、ぜひアルバムに入れたいと思った時に、曲調を考えると(アルバムの)途中に入れるような曲ではないと思ったので、これは1曲目にしようと。歌詞も自然と1曲目っぽいものになったのかもしれないです」
――あと本作で大きいのはドラマーの交代で、内野さんに代わってSiNEの竹田さんがサポートで参加しています。ドラムのキャラクターの違いが作品性に大きく反映されていますね。
「全然違いますよね。ウッチーは歌に寄り添うタイプのドラマーで、すごく歌いやすかったんですけど、武田くんはもともとギタリストで、ギターが上手なんですよ。たぶん、私より全然上手い(笑)。だから、王道のドラマー気質みたいなのとは感覚が違うんだと思います。フレーズやグルーヴもドラムらしくないというか、違う感覚で考えているのかもしれません。もうちょっと遊んでいるというか」
――そんなドラムの独自性を象徴しているのが“Beat Rotates”で、この曲はやはり変則的なビートのパターンから作られたわけですか?
「そうです。もともとは1曲目が出来た時に、同じBPMで4つ打ちの曲が次に来たらいいんじゃない?と話をしていて。リズムが印象的な曲になったので、そういうタイトルになりました。音楽的には1曲目から3曲目は冒険した感じもありつつ、toddleらしい曲になったと思います。3曲目の“Branch in the Road”はメロディーを(小林愛と)2人で追っかけたり、メロディーが前に出る曲になったので、歌に比重が寄っている感じ。それも新しいなと。逆に、ラストの3曲はウッチーがいた頃に出来た曲で、“Illuminate”は震災(東日本大震災)の後、一発目に書いた曲なので、4年前くらいからやっていますね」
――“Disilllsuion”は、もともとどんなイメージで作った曲だったんですか?
「私、LAMAのおかげでパソコンを覚えまして、夜にギターをあんまりジャカジャカ弾けない時に、打ち込みの音と、パッドやシンセの音で曲を作ったりすることもあるんです。“Disillusion”はインストみたいなノリで何となく作った感じだったんですが、バンドでアレンジできないかな?と」
――そういった課外活動でのインプットが、今回のアルバムに還元されていたりもしますか?
「たぶん、いっぱいありますね。toddle以外のギターのお手伝いをする際は、フレーズを考える時にiTunesをサーフィンして、気に入ったのをバーッと買うんです。そのバンドがどこの国のバンドで、何枚アルバムを出していて、どれだけ有名か、といったことは全然知らずにジャケ買いする感覚で」
――近年誰かにハマったりしましたか?
「ジャンルで言うと、ナカコーさんやSPANK PAGEのギターを考える時は、打ち込みで、かつ生のギターも入っているものをわりと聴いたかもしれないです。ユース・ラグーンのギターがすごく好きで、フレーズの作り方やギターの立ち位置という意味で影響を受けました。〈この曲のギターをお願いします〉と言われたら、自分もこんなの弾くかもと、聴きながら思いました。でも、解散しちゃいましたよね※……悲しい」
※ユース・ラグーンはソロ・プロジェクトなので、正確には解散ではなくプロジェクトが終了
――あと2013年のブログでは、アーケイド・ファイアのブームが来てると書かれていましたね。
「『Reflector』(2013年)が出たちょっと後くらいまで、よく聴いていました。すごく好きな曲がいくつかあるのと、バンドが持っている雰囲気も好きですね。日本のバンドにはできない、メンバーの遊び心がそのまま金に変わってる……みたいな(笑)、大人から〈何言ってんの〉と言われそうなことでも、バンド・メンバーのなかで〈こういうことがやりたい〉という気持ちのまま進んでいるからか、遊びが満点なんですよ。真面目に演奏していない人もいたり、持ってる楽器もちょっとボロかったり、でもデカいステージに立っていて……とバランスがすごくカッコイイ。いまはだいぶセレブっぽくなってきてアレですけど(笑)、でもやっぱりカッコイイですね」
――タイトル曲の“Vacantly”は、内野さん在籍時に出来ていた曲だそうですが、〈長い夢の その続きと さようならをそっと 暗い海へ 返すよ〉という歌詞からして、やはり〈別れ〉をテーマにした曲なのでしょうか?
「“Beat Rotates”とかでも言ってますけど、〈終わりと始まり〉というのはあるかもしれない。この曲はもともとナカコーさんの配信限定レーベル=Sound Of Romancesから田渕ひさ子名義で出したインスト曲(2012年発表の“Vacantly (Early Demo Version)”)で、ギターでメロディーを弾いていたんですけど、バンドでやろうと思って歌詞をつけたから足かけ6~7年前からある曲なんですよね」
――5年以上の歳月を経て、ついに完成した曲だったわけですね。ソロというアウトプットもありつつ、今後に関してもtoddleの活動を軸として、マイペースにいろんなライヴやレコーディングに参加しながら音楽活動を続けていかれるのでしょうか?
「そうですね。音楽が自分の生きていく中心で、〈ギター弾いてないと死んじゃう〉感じなので(笑)。まあ、ソロとtoddleでカテゴリーを分けているわけでもないし、ギターだけを弾く時はまた全然違って楽しいんです。でも私はtoddleのメンバーがとても好きなので、違うことばっかりやっていると、〈toddleの人たちに会いたいな〉って思うんですよね(笑)」
toddle presents 「world wide waddle」
『Vacantly』発売記念ワンマン
8月7日(日)東京・TSUTAYA O-nest
toddle『Vacantly』レコ発ツアー
8月14日(日)鹿児島・SR HALL
8月15日(月)福岡・UTERO
8月16日(火)佐賀・ROCK RIDE
9月3日(土)仙台・Flyng Son
9月4日(日)山形・sandinista
9月19日(月・祝)愛媛・松江 B1
11月3日(木・祝)長野・松本 give me little more.
11月20日(日)名古屋・HUCK FINN
11月25日(金)北海道・札幌 spiritual lounge
11月26日(土)北海道・苫小牧 ELLCUBE
12月10日(土)大阪・梅田 HARDRAIN
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