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“YouTube以降のミュージック・コンクレート・ポップ”。フランスの鬼才音楽家=シャソールに注目!

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鳥のさえずりや日常会話、市井の音楽家による路上での演奏、子供の合唱、カーニバルでうち鳴らされる太鼓など…。フィールド・レコーディングされた旅のスケッチのような音素材の中にメロディを見いだしてキーボードで旋律を重ね、ループ処理やハーモニー、ドラムのビートなどを加えながら展開していくマジカルな音世界を紡ぐ、フランス発の才人シャソール。

優雅なフレンチ・カリビアン音楽の宝庫として知られるマルチニーク出身の両親のもとに1976年に生まれ、2000年代の前半にはフランスのロック・バンドとして世界的な人気を誇るフェニックスやセバスチャン・テリエのツアー・サポートなどでキーボード奏者やアレンジャーとして活躍してきた彼だが、現在のソロのスタイルに行き着く大きな契機となったのはYouTubeの登場。世界中から投稿される無数の映像を自由に閲覧し、編集することにも夢中になったシャソールは、やがて「映像で使われている音楽を介して自分の音楽が作れるんじゃないか、というアイデアに行き着いた」(※『LATINA』2015年7月号のインタビュー記事より)とのことで、2006年にはロシアの子供たちが無垢に歌う音映像を素材にした「Russian KIdz」を制作している。この作品を原点に、2008年ごろからはモトとなる映像も自身で制作するようになり、フィ—ルド録音、ミュージック・コンクレート(具体音楽)、ミニマル音楽、ヒップホップ、現代ジャズ、ワールド・ミュージックなどの要素を独自のポップな形で融合してみせたのが、シャソールの音楽というわけだ。

ミュージック・コンクレートは、その名の通りに楽音ではなく録音された自然音や環境音、騒音などといった具体的(=Concrete)な音を用いる現代音楽の手法のひとつ。1940年代の後半から様々な作品が作られてきたが、今ではアカデミックな実験音楽などの範疇にとどまることなく、サンプリング機材などの発達によってヒップホップやエレクトロニカといったポップ・ミュージックにも当たり前のように応用されている。

シャソールの音楽も、ループの作り方やブレイクビーツを重ねるあたりにはヒップホップに通じる要素が聴き取れるが、フィールド録音した雑多な素材からメロディやハーモニーを導き出し、アルバムではひとつの壮大なシンフォニー(交響曲)のように構成してしまう、他に類似例がない作曲方法とその産物は、“YouTube以降の環境から生まれた新しいミュージック・コンクレート・ポップ”とでも形容すべきもの。シャソールは、影響を受けた音楽家として60年代から活躍を続けるブラジルの鬼才マルチ・プレイヤーであるエルメート・パスコアールの名を挙げているが、動物の鳴き声や大統領の演説、サッカーの実況、あるいは東京の浅草の“バナナの叩き売り”の口上からも幻想的なメロディを引き出す(「Feira De Asakusa」)エルメートの音楽は、手法のみならずそこから導き出されたミステリアスな旋律までもよく似ている点が興味深い。シャソールは、米国のオバマ大統領の演説映像を題材にした「Obama Harmonized By Chassol」という作品をウェブ上で公開しているが、こちらを聴いて面白いと思われた方は、エルメートが当時のブラジルの大統領の演説に鳥や豚の鳴き声までも音楽化した楽曲も収めた1992年発表の傑作『Festa Dos Deuses(神々の祭り)』もぜひ聴いてみてほしい。

昨年に初の来日公演を行ったことで日本でも急速に注目を高めてきたシャソールだが、8月に予定されているビルボードライブ公演では、1stステージで、インドでシュ—ティングした音と映像を題材とした13年発表の『Indiamore』、2ndステージで、両親の故郷であるマルチニークを題材とした昨年リリースの最新作『Big Sun』の楽曲を演奏することが予定されている。

『Indiamore』は、インドにおいてムンバイとデリーに次ぐ人口を誇るコルカタ(旧カルカッタ)とヒンドゥー教の聖地として知られるガンジス川沿いのバラナシで撮影されたヴィヴィッドな映像を再構築したもので、インドらしいシタールやタブラの演奏、カン高い女性歌手の歌声に、車の中で同行したインド人男性が口ずさんだチャント、路上で奏でられていた弦楽器などが、巧みな編集とシャソールの鍵盤によるハーモナイズが加わることによって未体験のサウンド・トリップへと聴く者を誘う秀作。インドの音楽を題材とした動機について、彼は通低音(ドローン)と高音の間に西欧音楽的な要素を入れるスペースがあることに魅力を感じたと語っているが、単にインド音楽に傾倒しただけのモノとは一線を画するクールな視点と、独自のスタイルで異文化との共存を実現している点が見事だ。

そして、自身のルーツを再訪した作品でもある『Big Sun』は、アンビエント音楽にも通じるような心地よい小鳥の鳴き声、マルチニークを代表するクレオール詩人の巨匠として知られるジョビー・ベルナベによる朗読、同じくマルチニークの至宝楽団として日本でもワールド・ミュージックのファンに愛され続けるマラヴォワに在籍したピポ・ゲルトリュードの洒脱な歌声、口笛、現地の若手ミュージシャンによるラップ、カーニバルで鳴らされるアッパーな打楽器のリズムなどを交えながら、めくるめく”アイランド・シンフォニー”を3部構成で展開した大作。映像も駆使した極めてマルチ・メディア性の高いパフォーマンスでありながら、どこか音楽の根源へと迫っていくようなピュアネスとユーモアに満ちたシャソールの音楽は、きっと新しい感性の扉を開いてくれるだろう。

昨年末には、有名ブランドのシャネルによる”2015-16年メティエダールコレクション「パリ・イン・ローマ」”のショーでも彼の音楽が使用され、着実により幅広い注目を集めつつあるシャソールの音世界。9月にはすでにデジタル配信が始まっているサントラ用に書き下ろした楽曲やリミックス・ワークを集めた新作『Ultrascore II』の限定アナログ盤でのリリースも控えており、ジャンルや国境を超えた彼の快進撃はまだまだ続くに違いない。

Text_Hidesumi Yoshimoto


Chassol Billboard Live In Japan

ビルボードライブ東京
日程:2016年8月29日(月)
時間:1st 開場17:30/開演19:00、2nd 開場20:45/開演21:30
詳細

ビルボードライブ大阪
日程:2016年8月31日(水)
時間:1st 開場17:30/開演18:30、2nd 開場20:30/開演21:30
詳細

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