真面目な人は素晴らしいと思う.たまに「真面目すぎる」と言われる人がいて,そういう人は融通が利かなかったり,他の人に不憫な思いをさせてしまうからそう言われるのであって,それは真面目さの度合いが過ぎているのだとは思わない.
そのはずなのに,今日は真面目な友達につい感情的にいろいろ言いすぎてしまった.こんなに理性を失ったのは久しぶりかもしれない.とにかく言いたいことを次々に言いながら,時間も経つのを忘れていたし,自分が話している内容が論理的に正しいかを考える頭もなくなってしまった.だから後から考えてみると自分の主張はおかしく思えるかもしれない.それに,他の人から見たら自分の主張は間違っているかもしれない.誹謗中傷を受けたいわけではないけど,もし第三者の立場から意見してくれる方がいたらぜひ考えを教えてほしい.
・私
理系の研究室の学生.修士2年(大学院2年目,理系の大学ではMaster 2 の略でM2と言う).
・D教授
あと数年で定年退職を迎える.業界ではかなり著名な方らしく,たまにテレビや新聞にインタビューされていたりもする.とても温厚で,雰囲気が財津和夫に似ている.最近は会議や打ち合わせで多忙で,研究室の学生とも顔を合わせない日がほとんど.私の指導教員の学生時代の恩師で,つまり「先生の先生」.D教授の研究室と共同で研究をしているので,D教授への進捗報告もたまにある.
・S
D教授の研究室のM2.私とはほとんど同じ研究室のような間柄.私とは居室が同じなので研究の合間によく雑談をしている.いつもおしゃれなファッションに身を包んでいて,ノリのよくて明るい人.友達も多くて,後輩達からも慕われている.
・H
彼が真面目すぎるほど真面目な人.Sと同じD教授の研究室のM2.かつて私と卒業パーティーの幹事を共同で勤めたこともあった.そのときにも自身の卒業式の後,友達と写真を撮ったり集まったりせずにパーティーの準備に勤しむなど,真面目さがあふれ出ていた.
・R
Hの後輩の学部4年生.この4月から正式な研究室のメンバーになった留学生.まだ日にちも浅いのでいろいろ不慣れ.
事の発端は先日,D教授がSに
「Sが1年以上前にやっていた実験でもう一度データを取って,その内容をまとめて発表できないか?」
と依頼してきたことだった.
Sは1年前にある実験でデータを取って,それで卒業論文を書いた.そのあと,Sは違う研究を進めるチームに引き抜かれ,それまでとは全く違う研究を担当することになった.私とはどういう関係があるかというと,かつてSが所属していた研究班と,私が所属する研究班は内容がとても似ていて,ほとんど同じような実験をしているという点.しかも,今現在私が使っている実験装置はかつてSが実験をしていた装置で,そのあと細かい変更はあったものの,Sは実験装置のことをよく知っているので,たまに質問に行ったりもする.
そんなSに,D教授がかつてSが実施していた実験をもう一度できないかと依頼してきたのだった.これがどういういきさつなのはよくわからない.ただ,Sが卒業論文を書いただけで,学会に投稿する論文などにしていなかったので,一度外に出せる形にしておこうという意図があったのかもしれない.
そこで,Sが,かつての実験をもう一度できないかを検討した.その結果,一部の実験装置を借りてきたり購入したりしないといけないものの,基本的には可能だということがわかった.
ただ,一つ問題があった.その実験には「ヒータ」を使わなければならない.でも,もうその実験は1年以上やっていないので,ヒータはHとRの班がずっと使用していた.そのヒータをHとRが実験で使用している最中に壊してしまったらしい.具体的に何があったのかは把握できていないけれど,どうもRの手違いらしい.ちなみにヒータの価格は約20万円.
また,Sは今,自身の研究班でテーマを持っているので,かつての実験も同時にもつのは難しい.そこで,今その装置を使っている私が,その実験を引き受けることになった.
このような状況を整理して,SがD教授にメールで状況説明をした.その内容はだいたいこのようなものだった.
「先生のおっしゃった実験につきまして,実験装置としては可能です.ただ,ヒータをHとRの班が壊してしまったので,新しくヒータを購入しなければなりません.また,現在自分は自身のもつテーマが忙しくて自分ひとりでは持てないので,今その装置を使っている(私)にも協力してもらおうと思います.実験については,(私)にお願いしようと思います.」
論文の締め切りもあり,それがなかなかタイトなので,本当にかつての実験をもう一度やるのかどうかを,D教授の判断にゆだねよう,ということになった.
そして上記のメールは,宛先はD教授,CCに私,そしてHが入っていた.Hは違う建物にいるので,その場にはいなかった.
SがD教授にメールを送ってから数十分後,Sが私に「Hが変なメールを送ってきた」と言ってきた.そのメールを転送してもらった私は驚き,奇声を上げてしまった.
そのメールには,こんな文があった.
「ヒータは自分の班で壊しました.なので弁償も仕方ないと考えています.」
確かに,学生の不注意で実験器具を壊してしまったときには教授から「弁償だ!」なんていう声が飛ぶこともある.しかしこれを真に受ける学生は一人もいない.もし本当に実験装置の購入を学生が自費で負担するようなことがあったそんな研究室はブラック中のブラック研究室だ.ニュースになるレベルだと思う.
うちの学科でブラックだと有名になっている研究室でも出張費が出ないとかそのレベルの話であって,数十万円単位の弁償をさせるなんて聞いたことがない)
しかも,その文の続きに,頭が痛くなった.
そんな話を聞いたら,良識のある親なら,「学生に実験装置の弁償をさせる研究室なんておかしい」と怒り出すはずだ.D教授を訴えるようなことにもなりかねない.
そしてさらに,少し冷静になってメール全文を初めから読んでみて,あることに気が付いた.
そのメールはSや私に宛てたものではなく,宛先はなんとD教授だった.SはCCに入っているに過ぎなかった.
なんと,あろうことか,HはD教授に「Sと(私)が使う実験装置を弁償します」という旨のメールを送っているのだった.
「R君,君にも負担してもらうことになると思うので,一応両親に話をしておいてください」
なんと,実験装置を弁償するという罰を,後輩であるRにも受けさせようとしているのか!?
もう一度状況を整理しておくと,SがD教授に送った「HとRの班に貸している間にヒータが壊れたので,もう一度購入しなければなりません.」というメールに対して,Hは「自分が弁償します」と言ってきているのだった.
おかしいところがいっぱいあって,どこからつっこんでいいのかわからないけど,そもそもこの場面で「自分が弁償します」と発言すること自体が論点がずれてしまっている.当然,SはHに責任があって実験ができないと言っているのではない.それに研究室の実験装置を学生が負担することがありえると思っていることもおかしいし,もしそんなことになるとしても,それを自分から言うのはどういうことなのか.
これはさすがにおかしい,ということでSがHのいる居室に電話をかけた.
Sが問いかける.
しかし,Hは
「何か変なメールを送ったっけ?」
という反応.そのあとも何やら話しているけどまったく通じないみたい.
そこでSが「電話を代わって」と言ってきたので,私がHと話をした.
「何を考えてるの?本当に弁償する気なの?これを読んでD教授はどう感じると思う?」
と聞くと,Hは
「弁償しろと言われたらする.ただ,このメールを読んでD教授が混乱するかもしれないのはわかってる」
と言う.特に落ち込んでいたり,悩みこんでいる様子でもない.「弁償も仕方ないかな」と言わんばかりだ.
両親に相談するとかの件も,わりと本気でそのつもりらしい.
「弁償なんてあるわけないでしょ」と言っても,「そうなの?」と言ってくる.いくらそんなことはありえないと言っても,話が平行のまま何も進まない.
このあたりから,相手の考えを理解して,その考えに対する反論をする.という当たり前のことをするための理性がどこかへいってしまった.
教授が研究室の学生に弁償を強要するということがどういうことなのか分かってる!?
そんなつもりは毛頭ないD教授がこのメールを読んでどう感じると思う!?
弁償する可能性があるとしても,それをいきなりD教授に『弁償します』とメールするのはおかしくない!?
ご両親が『実験装置を弁償することになったから金額を負担してほしい』なんてことを言われて,D教授のことをどう思う!?
疑い深い親なら研究室かもしくはD教授に直接電話かけてくるよ!?
感情のままに,Hに電話でたたみかけるように一方的に怒鳴ってしまった.気が付いたら15分近く経っていた.
今までにも人の言動が理解できずに頭に来たことはあったけど,そのたびに「周りの人がみな自分と同じことを考えているわけじゃないんだ」と自分に言い聞かせて,胸の中に渦巻く感情を抑えてきた.
でも,こればかりは,何も言わずにはいられなかった.おかしいことを指摘する義務があると思った.
そして,最後に,今までは思うことはあっても,なかなか人には言えなかったことを伝えた.
「どうしてそんなことを考えてるのに,他人に相談しないでいきなり行動しちゃうの?Sや私,あるいは研究室の他のメンバーに一言相談してくれてもいいんじゃないか?」
彼はしばらく黙っていて,そのあとに「ありがとう」と言った.
明日,D教授からあのメールに対する返信が来るだろう.D教授がなんというかわからないけど,弁償をさせることは絶対にない.もし万が一そんなことがあったら,私は明日から研究室に行きたくない.もう毎日が気が気じゃなくて研究どころじゃない.
Hは本当に真面目で,私も彼のような真面目さを見習わないといけないと思う.ただ,こんな場面で自分から「弁償します」と言うのは何かが間違っている.真面目だからこそなのかもしれないけど,その真面目さは何かが歪んでいる.少なくとも,Sがメールで伝えた現状から,「自分が弁償する」という結論を導くのは頭の中の論理にどこかおかしいところがある.
そして,そんなHに対して,私も感情的になってしまって,いつもならできるはずの「自分の主張は相手の話の論点からずれていないか」ということを考える,ということができなくなってしまっていた.
実は今もまだ冷静になりきれていない.明日になれば,もう少し落ち着いて考えられるのかもしれない.事態は収束していると思う.でも,このもやもやした感じを原動力にして,はじめてのはてな匿名ダイアリーを書いてみた.明日の冷静になった私に,ここまでの文は書けるとは思えない.そして,あとでこれを振り返って,すごく恥ずかしい気持ちになると思う.なんでこんなことを書いてるんだろう,と.でもそれでもいいと思えた.親友に電話でこの話をして共感を求めても,親友に気を使わせてしまうだけかもしれない.
こんなに長い文章を最後まで読んでくれる人がいるのかはわからないけど,まだ事態を整理できていない自分に,第三者の視点から意見をもえらえたらと思う.
20歳超えてるんだから普通に弁償責任はあり得るぞ。その場合の過失責任で弁償する金額の割合は変わるけどな。 知らんが、おそらく機器の半分は覚悟しておいたほうがええんちゃう。