担当: DU BOOKS 渡邉淳也
「ポール・マッカートニーの自伝的インタビュー集……って、熱心なファン向けでしょ」
と思われる方も少なくないはずです。でも、生き馬の目を抜く音楽ビジネス界のトップに50年以上君臨する男が、同郷の後輩にフランクに語った打ち明け話と考えるとどうでしょう。ほんの少しでも興味がわいたらば、この続きを読んでみてください。「レット・イット・ビー」と「ヘイ・ジュード」しか知らない? まったく問題なしです。
悩み、迷う生々しい己の姿をポール自らが語る
本書は、元ビートルズにして言わずもがなの有名ミュージシャンのインタビュー集ですから、ロックンロール・ライフの真実、酸いも甘いもかみ分けた業界裏話の類は抜群におもしろい。音楽ファン必読です。ところが、仮にそうした部分をすべて除いたとしても、本書の魅力はなくなりません。
その魅力とは、ひとりの人間(職業人)として、半世紀に及ぶ活動の中で迷い、悩み、決断を繰り返しながら、コツコツ創作を続けていくポールの本心を、自ら語っていることに尽きます。74歳になる現在も、クリエイターとして絶えず前進していくことを己に課している男の、実直な記録にこそ真価があるとも言えるでしょう。
本書を読むまで私も、天才だし大御所なんだから、悩みもなくて、周りに振り回されることもないんだろう、と思い込んでいました。ところが、ポールの言葉をたどってみると大違い。膨大な利害関係の調整、周囲の人間との軋轢、レコード会社への不満、期待される役回りとのギャップ……そんな問題の山に直面し、戸惑い声を上げるポールの生身の姿が現れたのです。
彼の心境はこんな言葉にも表れています。
「みんな、ほほ笑みの向こう側を見ようとしないんだ。(中略)それだけじゃすまないものがあるんだけど。ぼくには当然、それがなんだかわかっている。そのしょうもないクソを実際に生きてきたからだ」