タイヤの空気が抜けた大型四輪駆動車「GMC」。高級多目的スポーツ車(SUV)「レンジローバー」や高級スポーツ車「カマロGT」も近くに並び、GMC同様に厚い砂ぼこりに覆われていた。ドバイ空港の立体駐車場のスペースに30台以上並ぶ、どうやら放置されたであろう自動車の1台だ。
こうした放置車両はドバイを悩ませる“逃亡者”が増えている証しだ。ビジネス・金融の中心地であるドバイだが、景気停滞に合わせ、外国人駐在員が借金を負い、債務者刑務所に服役しないで逃げるように去ったのだ。
石油豊かな湾岸各国の政府は、原油価格の低迷で歳出削減やプロジェクトの延期を余儀なくされている。民間企業も人員を削減したり、一部は倒産に追い込まれたりしている。
■中小数百社、UAEから撤退
HSBCの中東担当チーフ・エコノミストのサイモン・ウィリアム氏は「大幅な減速が起きているが、なんとかする手立てはまだある」とした上で、「原油安は問題だ。ドバイは石油を産出しているわけではないが、需要が落ちている他の湾岸諸国にサービスを輸出している」と話した。
放置車両は2009年の危機時のドバイのイメージを象徴する。当時のドバイは、石油の豊富なアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビからの200億ドルの救済に頼らざるを得なかった。
今年の減速は当時の危機レベルには達しておらず、ドバイへの影響は他の石油依存型のカタールやアブダビなどに比べると少ない。だが、ドバイは依然として国内総生産(GDP)に対して約140%の債務を抱えており、18年までに220億ドルの債務返済と国債償還をする必要がある。
政府が抱える問題は、不況にあえぐ民間企業の苦悩も悪化させている。2万社の取引信用保険を監視する信用保険大手のコファスによると、15年第3四半期から今年の第1四半期にかけて、請求が徐々に遅れたことで企業が債務返済に間に合わなくなり、237の中小企業の経営者がUAEから撤退した。
その結果の一つが、空港の放置車両だ。小切手の不渡りや倒産はドバイでは犯罪とみなされるため、債務返済が不能となった多くの外国人駐在員が投獄リスクを避けようと車を捨てて同国から逃げることを選んだ。
捨てられた高級車「レンジローバー」のほこりをかぶったフロントガラスに書かれた落書きがドバイの暗い現実を物語っている。「私はカネがない」という落書きに誰かが「私にはある」と返し、3つ目の落書きには「車を売ってカネをつくれ」とあった。
コファスの中東代表のマッシモ・ファルチオーニ氏は「こうした逃亡例は以前の3倍になった」と述べた。