正義の味方に憧れてましたよ。
当たり前ですよ。
最初っから悪の組織で働きたいなんて奴はいません。
でもね。
いつからか分かるんですよ。
イケメンでもないし。
勉強もできるわけじゃ無し。
スポーツだって凡人止まり。
それにね。
・・・
私は子どもの頃、あまり裕福な家庭ではなかったと思います…。
思います…。
と、あまり自信がないのは、当時の親の年収を把握していないのです。
もしかしたら、そこそこ収入があったのにケチだっただけの可能性も捨てきれません。
とにかく、旅行はあまり行かなかったし、お菓子を買ってもらったこともそんなに記憶にありません。
おもちゃについては…。
苦い思い出でいっぱいです。
・・・
正義の味方に憧れていた私は、ヒーローおもちゃが欲しくて仕方ありませんでした。
私には弟がおりますが2人でサンタクロースに頼みました。
私は熱い正義の心を持つリーダーである赤を。
弟はクールでいつも冷静な判断をする青を。
クリスマスの朝、枕元に置いてあった包みをサンタクロースに感謝を捧げながら兄弟で開けました。
私は赤いヒーローのように雄叫びをあげながら。
弟は青いヒーローのようにクールを装いながら。
しかし、包みを開けて私たちは愕然としました。
ピンク。
ピンクのヒーローでした。
ピンク、今でこそむしろピンクが1番好きではありますが少年だったあの頃は、忌むべき色でした。
女の色であると。
愚かな少年だった私は、ピンクに触れることを禁忌としていたのです。
今ではピンクに触れたくても触れられないのに。
しかし、当時の私には、男である私にとってそれは許されることではなかったのです。
なぜだ。
サンタクロースには色もきちんと指定したはずなのに。
私たち兄弟はすぐにピンときました。
サンタクロースがこんなミスをするはずがない。
ブローカ (仲介人)である親父の発注ミスであると。
我々は早速、クレームとして返品交換対応を求めるべく、仕事のできない親父の元へ走りました。
親父は喜んでいるはずの息子達からクレームをつけられ当惑していました。
そしてすぐに怒りに変わりました。
我々兄弟は理不尽にゲンコツを浴び、泣き叫ぶことしかできなかったのです。
そして、
絶望の淵にいる我々兄弟にさらに絶望が上塗りされます。
泣き叫ぶ我々兄弟を嘲うかのように親父はピンクのヒーローを蹂躙し始めました。
ピンクのヒーローは親父の手にかかり、それぞれ、赤と青のマジックで塗られていきます。
親父に辱められたピンクのヒーローは、
見たこともないカラーのヒーローへと生まれ変わっていました。
ややオレンジ、やや紫色の斬新なカラーのヒーローです。
私は、冷めた気持ちでそのヒーローを、弟は、取り乱しながらそのヒーローを手に取り、ただ涙を浮かべたのです。
それぞれの憧れたヒーローとは最も離れた姿でヒーローを手に取りました。
ところどころ、塗り残しのあるそのヒーローの姿がまさに凌辱の凄まじさを物語っていました。
正義は無力だ。
1人では悪に立ち向かうこともできない。
あんなに格好良く、悪を倒していたピンクのヒーロー。
それがあんな中年の親父1人にいいようにされて。
私は、それをただ見ていることしかできなかった。
見ていることしかできなかった自分が許せなかった。
私はいつかこの親父を倒すべく、人知れず悪の道に堕ちていったのです。
つづく。