リオデジャネイロ五輪からのロシア選手の全面的な締め出しが回避された。禁止薬物に手を染めていない選手は、一定条件を満たせば参加できる。

 国ぐるみのドーピングの責任を、個々の潔白な選手全員にも負わせるのは理不尽の感が否めない。ロシア選手に参加の道が開かれたことは理解できる。

 しかし、国際オリンピック委員会(IOC)の決定のあり方には、大きな問題が残った。

 IOCは参加の条件として、国外の機関による検査結果の提出や、抜き打ち検査などを挙げた。判断は、それぞれの国際競技団体に委ねるという。

 今後の対応は団体ごとにばらばらになるだろう。陸上競技はすでにチームとしてのロシア参加の道を閉ざしている。同様の姿勢を探る団体がある一方で、テニスではすでに出場を認める方針が発表された。

 これで競技間の公平が担保されるのか。もっと統一的な対応をとらなかったのは、世界最大の祭典の統括組織としての責任を放棄したといっていい。

 さらに疑問なのは、不正にかかわったと思われるロシア・オリンピック委員会に明確な処分を科していない点だ。個々の選手らは救済されるべきだが、不正関与の疑いが濃厚な関係組織は調査し、責任を問うのが当然の対応ではないか。

 背景に大国ロシアへの政治的ともいえる配慮があったとしたら、それは認められない。

 国際スポーツ界でのロシアの存在は大きい。財政難に苦しむ国が多い中、今も積極的に国際大会を誘致し、有力選手を多く抱える。結果としてスポンサーを引き寄せる力を持つ。

 今回の結論がこうしたロシアの影響力を考慮し、目先の利益にこだわったものだとしたら、将来に向けてスポーツの本質的な価値を損なうことになる。

 ロシアへの非難は今回の決定を経て何ら変わることはない。問題の解明や再発防止の体制づくりをただちに進め、関与したすべての国家幹部の処分などを急がねばならない。

 国際的な薬物問題の蔓延(まんえん)は深刻だ。IOCが過去に取り置いた検体を再検査したら、08年北京と12年ロンドンの二つの五輪で98人が陽性となった。最近発表された45人分では、北京での不正選手は8カ国・地域、ロンドンでは9カ国・地域に及ぶ。

 ドーピングは競技を不公平にするだけでなく、人間の健康もむしばみ、スポーツの根源的な意義を損ねる。その重大な問題と闘う決意が、IOCと各国の傘下団体に求められている。