ヤフー・メッセンジャーのサービス終了に困惑する石油業界

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ニューヨーク・マーカンタイル取引所の石油オプションのトレーダーたち(7月) Photo: Richard Drew/Associated Press

 今年に入ってから、原油市場はいくつもの強力な要因にかく乱されてきた。中国の需要の予測できない変化、米国の生産動向、不可思議な石油輸出国機構(OPEC)の政策などである。

 そして、ヤフー・メッセンジャーの古いバージョンのサービス終了が迫っていることも忘れてはいけない。

 元石油ブローカーでエネルギーアナリストのアンドリュー・ルボウ氏は「とても動揺している」と話す。米ヤフーは新たなメッセンジャー・システムへの顧客の乗り換えを促すために、8月5日でそのサービスを終了する。「私のユーザーネームはたくさんの相手とつながっていた」と同氏は言う。

 数万人の石油トレーダーたちは毎日、数百万バレルの原油やガソリンなど燃料の取引をこのヤフーのシステムに依存してきた。ところが、ヤフーの新メッセンジャーにはチャットの内容を個別のアーカイブに保存したり、メッセージを取り消す機能がないので、多くの石油取引業者にとって使い勝手が悪くなる。

 他の人たちがツイッターを利用するように、1998年に始まったヤフー・メッセンジャーを四六時中利用し、売買注文を出したり、ゴシップ、ジョーク、記事の見出しなどを拡散している大勢の石油トレーダーたちにとって、これは由々しきことだ。

 エネルギーブローカー、パワーハウスのエレイン・レビン社長は「ヤフーのアドレスを教えてくださいというのがエネルギー業界の関係者の間で交わされる最初の質問だ」と話す。ちなみに、レビン社長のユーザーネームはelaintradesfuturesだ。

 トレーダーたちはヤフー・メッセンジャー上では先物市場の省略表現でやり取りする。1月は「F」、12月は「Z」というように各月は1文字で表される。港や貯蔵施設にも略語がある。たとえば「how’s WTI CS U7」というメッセージは、「2017年9月のウエスト・テキサス・インターミディエート(米指標油種)の原油スワップ価格はいくらか?」という意味である。

 ブローカーたちは数百人に同時に価格情報や気軽なあいさつ「gm(グッド・モーニング)」を送ることを「ブラスト(爆破)」と呼んでいる。

 マースク・オイル・トレーディングで米国産燃料デスクの責任者を務めるマーク・レフソー・ホルム氏(33)は名刺にヤフーのユーザーネームを記載し、取引の約80%をヤフー・メッセンジャーで行っているという。

 新入社員たちは同氏のこうした習慣に困惑気味だという。ホルム氏は「若い人たちは『はっ?何ですか』と聞き返してくる」と話す。「彼らはわれわれが古めかしいシステムを利用していることに少し驚いている」。

 ベテラントレーダーたちの中には郷愁にかられている人もいる。石油貯蔵施設仲介業者ザ・タンク・タイガーのアーニー・バーサミアン最高経営責任者(CEO)は顧客宛ての書簡にこんなポエムを書いた。

 「市場のボラティリティが高いか低いかを議論するトレーダーたちにとって、ヤフー・メッセンジャーがふるさとだ。それなのにヤフーは自分たちがフロントガラスで、われわれをそこに張り付いたブヨのような存在だと考えている」。

 ヤフーがトレーダーたちに便宜を図らなかったことに当惑や怒りを表明する人も多い。エニ・トレーディング・アンド・シッピングのホルヘ・モンテペケ上級副社長は「ヤフーがどうして所有しているダイヤモンドに気付けなかったのか、私には今もわからない」と述べた。

 ヤフーの広報担当者によると、原油市場で同社が中心的役割を果たしていたことは知っていたという。広報担当者はトレーダーたちについて、数百万に上るヤフー・メッセンジャーのユーザーの「ごく一部」だとした上で、ヤフーは新たなメッセンジャーで消費者層に焦点を当てていると付け加えた。

 インスタントメッセージの利用はあらゆる市場のトレーダーたちの間で人気だが、ヤフーは石油業界に際立った足場を築いた。

 だがヤフー・メッセンジャーにこだわらないトレーダーもたくさんいる。新しいメッセージシステムの方が、ライブデータやチャートの共有が可能だったり、取引の詳細がより簡単に記録できたりと高機能になっているからだ。

 一つの時代が終わろうとしている今、トレーダーやブローカーは他のサービスを探し回ったり、複数のサービスに登録したり、同業者がどれを選ぶのかを見極めてから選ぼうとしたりしている。

 そこには激しい競争がある。インターコンチネンタル取引所(ICE)は6月にそのチャットアプリケーション、「ICEインスタントメッセージ」を無料にし、ユーザー数は年初から65%も増加したという。ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)を運営するCMEグループも、独自のインスタントメッセージを売り込んでいくと述べた。ブルームバーグの金融情報端末は銀行、ヘッジファンドなどのトレーダーの間で広く使われているが、ガソリンスタンドのチェーンのような小規模な原油市場参加者の多くは使っていない。

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