『 ぼくと透明なネコ』(by 猫飼えないショウエイ)
◆その3
ネコの気まぐれに戸惑うほど「猫知らず」ではない。
※「猫知らず」=ネコのことをよく知らない人
猫語り
※「猫語り」=ネコについて語ること
短編『この場所が、いいねとあたなが言ったから、冬のその日はお猫記念日』
私はネコを飼ったことがない。ゆえに、気がついたときにはすでに猫好きになっていた、などという事情はない。
落ちたのは、大学二年の冬のことだ。
バイトで買った中古車、ジムニーで自宅アパートに向かっていた、家庭教師先からの帰り道。
小腹が空いたのを感じ、サークルKに入った。
冬は、おでん。チビ太のおでんだ。
専用カップに、大根、糸こんにゃく、ゆで卵、モチきんちゃく、の四点を入れてレジを済ませる。定番のラインナップだ。
外に出ると息が白かったが、私は駐車場の縁石に腰かけ、ふたを開けた。冬の外で喰らうというのも、趣があろう。
まずは大根。はしでホールケーキのように分割し、三角柱となったものを口に入れる。だしが十分に染み込んでいて、たまらない。
半分くらいになったところで、駐車場と民家の境目になっている塀に、一匹のネコが姿を現した。もう暗い時間だったが、コンビニの街灯が届く範囲だったので、しっかりと、白ネコと認識できた。
猫好きではない私は、とくに意識することなく、残りの大根を食べつづけた。
気づいたときには、すぐそばに白ネコが腰をおろしていた。私の手もとにあるカップをのぞき込んでいるようにも見える。
食べたいのか?
私は、とくに愛情を抱いているわけでもないのに、大根のひとかけらを白ネコに与えていた。家庭教師先の子どもの成績が上がったと聞き、機嫌がよかった。
白ネコはアスファルトに置かれた大根のにおいをかぐ。しかし食べはしなかった。そしてまたしても私の手もとをのぞく。
糸こんにゃくか?
私は糸こんにゃくを口に含み、ばらけた糸の数本を地面に置いた。
白ネコは再度、鼻を近づける。なめるような仕草を見せたものの、やはり食べはしなかった。
ここで私は、ネコがトラやライオンの仲間であることを思いだす。
ああ、動物性タンパク、ゆで卵か。
はしで半分にすると、黄身がこぼれ落ちないよう注意しながら白ネコの足もとに置いた。
なめはするものの、食べない。猫舌で冷めるのを待っているのかもと考えたが、時間がたっても、口にしようとはしなかった。
おまえ、おれとおなじ、モチきんちゃく好きか?
私は、好きなものを最後に食べる派である。最後まで楽しみにとっておいたものを、どこの猫の骨ともわからんやつに分けてやる義理があるだろうか。
ない。
白ネコの訴えはスルーすることにした。
それでも、白ネコは私の手もとを見つめつづけている。カップの中にあるモチきんちゃくを、透視している。その視線が痛い。
しょうがないなあ。
最後の一口だけ、恵んでやることにした。
はしでつまんだまま、鼻先にやる。
白ネコは、無反応。さすがになれなれしすぎるかと、前足の手前あたりに置いた。さあ、食べろ。
だが、白ネコは反応を示さないのであった。まだ、私がひざの上に置いているカップを見ている。
もしかしてーー
おまえ、通だな。出汁が飲みたいとは。
苦笑しながら、私はだいぶ冷めたカップを白ネコの足もとに置いた。そのときだ。
白ネコはひらりと舞いあがると、私のひざに乗り、丸くなって、寝た。
私は身動きが取れなくなった。
白ネコが狙っていたのは、おでんではなく、出汁でもなく、私のひざだったのだ。視線の先に見ていたのは、おでんのカップなどではなかったのだ。
タイミングをずっと見計らっていたのか。私は口もとが緩むのを感じるとともに、ひざの上の暖かいものの重みを、なんだかうれしく思った。
おそるおそるなでてみると、その毛並みは、想像よりもずっと柔らかかった。私は十五分ほど、ソファの役割をつづけた。
目覚めた白ネコが去っていく後ろ姿を、なごり惜しく眺めた。
この世に猫好きがひとり、加わった瞬間である。(おわり)
きょうの直角猫
#cutecat pic.twitter.com/AmfJy9AqQu
— SM Scrapbook (@smscrapbook) 2016年7月12日
きょうの猫グッズ 印鑑
連載ゆる四コマ×2
『まぐねっこ』(by 五郎)
20回達成ですね五郎先生!
◆その20
つぎから冷やし中華にしとこうか。
『ペットボトルくん』(by ショウエイ)
50話も遠く感じたが、100話も相当遠い・・・。
◆その52
やさしい世界・・・。