19日のフィリーズ戦に代打で登場した42歳のイチローは、記録上はピッチャーゴロに倒れたが、アウトになった瞬間、客席からどよめきが起こった。
センターに抜けようかという痛烈な打球を投手が右手ではじく。そのボールを、おそらく投手は余裕があると思ったのだろう。下からトスすると、一塁は間一髪というタイミングになった。
■敵地のファンもうならせる
手動ながら、後でイチローの一塁までのタイムをはかって見ると3.86秒。あのスピードに敵地のファンもうなったのだ。
翌朝、ア・リーグ東地区のチームとナ・リーグ西地区のチームのスカウトと一緒に食事をとった。
話題が前日のイチローのプレーとなると、ア・リーグのスカウトが口にした。
「イチローのスピードは速くなった」
具体的なタイムの話になると、「ヤンキースにいた頃は4.1秒前後だった。今は3.8秒台であることが多い」と教えてくれた。
ナ・リーグのスカウトも同意する。「2011~12年の頃は4秒を超えていた。デビューした頃は3.65~3.75秒だったので、その頃と比べれば0.3秒ぐらい落ちたわけだが、また4秒を切っている」
昨年度、球場内に設置された特殊なビデオカメラから選手の動きを数値化する「Statcast」のデータによれば、イチローの一塁平均到達時間は3.98秒でリーグ5位だった。ところが今年はさらに速くなって3.8秒台となっているのではないか――。
一塁までの距離は27.44メートル。4秒ちょうどで駆け抜けるとして1秒で6.88メートル。0.1秒で68.8センチ。1メートルに満たない距離とはいえ、単純にこの分が速くなれば、イチローのようにスピードで勝負している選手にとっては小さくない差だ。
「当然、微妙な当たりが内野安打になる可能性が増える」とア・リーグのスカウト。ナ・リーグのスカウトは一方でこう指摘する。「体形も変わらないし、この年齢でスピードを上げられるとは驚きだ」
■スピードの変化、本人も実感
スピードの変化はイチロー自身、実感しているところ。先日、セントルイスで3安打をマークした日の試合後にこう話した。
「去年より速いことは感触的にわかっている。去年というか、多分5年前と比べても速いと思いますね。少なくともヤンキースにいるころより絶対速いんでね。なんでかといわれてもよくわからないですがね」
タイムはイチローの感触通りだが、その理由の一つが、昨年から履いている新しいスパイクである可能性はある。
以前にも紹介したが、イチローは昨季からスパイクを、ワールドウィングエンタープライズ社の小山裕史代表が開発した「ビモロ」に変えた。2014年のオフ、そのスパイクでデータをとったところ、「従来と比べて(走る距離が)20メートルの場合、2.5メートル分速くなった」と小山代表。