オーナー一家のこうした不正に対し、社内にブレーキを掛ける人が誰もいないということにも呆れる。社員たちは「のどが捕盗庁(=食べていくためには本意でないこともやむを得ない)」と弁明するだろうが、オーナーの違法行為を手助けして会社に損害を与えることにまで免罪符を与えるわけにはいかない。
遅れた組織文化が招く弊害は、大宇造船海洋の粉飾会計と経営陣の不正、赤字の造船・海運企業に対する政府系銀行の闇雲な支援、上司の侮辱に自殺を選んだ若手検事など、枚挙にいとまがない。韓国のサラリーマンたちが上司の不当な要求や指示に異議を唱え、組織の不合理な決定の是非を正そうとしていれば、これほどの状況にはならなかったはずだ。30年前、ネクタイ部隊は「独裁打倒」の先頭に立った。サラリーマンたちは「のどが捕盗庁」ではなく「のどにナイフを突きつけられても」の精神を思い出す必要がありそうだ。
企業も対外的アピールのためのイベントばかりでなく、真の革新を後押しする制度的な装置をもっと取り入れるべきだ。例えば米シリコンバレーの企業のように、社内の決定に意図的に反対する人、すなわち「悪魔の代弁者」を置くのはどうだろうか。会社に深い愛情を持ち、同時に反骨精神も備えた社員に社内の「野党」役を任せれば、権力を使った社内の不正や汚職を減らせるのではないかと思う。
以前に会ったある大企業の役員は、横暴な振る舞いや不正を重ねる財閥2世、3世のことを「体制転覆勢力」と規定した。正しい言葉だ。市場と自由民主主義を守るには、経済民主化よりも企業民主化の方が喫緊の課題なのではないだろうか。