週末に行われた朝日新聞と共同通信(ともし独自調査であれば毎日新聞)の世論結果は、先刻公開した『kojitakenの日記』の記事「東京都知事選、小池優勢、増田追う。鳥越は苦戦(朝日、毎日、共同)」に記録しておいた。
今回、鳥越俊太郎の半世紀前のスキャンダルを暴いた「文春砲」が話題になっているが、同じ週刊文春が少し前に小池百合子の疑惑を書き立てていたことを忘れてはならないだろう。
http://news.livedoor.com/article/detail/11730452/
都知事候補、小池百合子氏に新たな政治資金疑惑
2016年7月6日 16時3分 週刊文春WEB
7月31日投開票の東京都知事選への出馬を表明している小池百合子元防衛相(63)に「政治とカネ」をめぐる疑惑が浮上した。自民党関係者が声を潜める。
「舛添要一前都知事の辞任が囁かれ出した頃、自民党では出馬の予想される小池さんの“身体検査”を行った。結果は『真っ黒』。舛添さんどころじゃない」
そこで小誌が取材したところ、小池氏の政治資金パーティの一部が政治資金収支報告書に記載されていないことがわかった。問題となったのは、2012年3月12日と6月25日に小池氏の選挙区内にある都内のホテルで開かれた「Y'sフォーラム」と称される政治資金パーティだ。
「政治資金パーティを開催した場合は、収入額と会場代などの支出額を、それぞれ政治資金収支報告書に記載しなければなりません」(総務省政治資金課)
だが、同年の小池氏の収支報告書の収入欄に、2つのパーティの記載はなく、なぜか支出欄に「会議費」として、パーティの会場代にほぼ合致する金額が記載されていた。
政治資金に詳しい上脇博之・神戸学院大学教授はこう指摘する。
「政治資金パーティであれば、政治資金規正法違反の不記載となります。支出だけ計上していれば、収支が合わないことに気付くはず。収入分は裏金と見られても仕方なく、小池氏は説明すべきです。一方、出席者から会費を取らずにパーティを開いたとしても問題です。選挙区内の人が出席していれば、選挙区民への寄付を禁じた公職選挙法違反となります」
小池氏の事務所は「当然のことながら選挙区民への供応をすることはありえません」と回答した。だが政治資金収支報告書に2つのパーティの記載がない理由については、期限までに回答しなかった。
(週刊文春WEBより)
舛添要一が「公私混同」(「政治と金」)の問題で東京都知事辞任に追い込まれたのであれば、本来なら政治と金の問題にクリーンな人物が後任であるべきだろう。たとえば1974年に田中角栄が「金脈問題」(これを追及したのはやはり文春だった。週刊文春ではなく月刊誌の方だったが)で辞任したあと、「椎名裁定」によって三木武夫が後任の総理大臣になったように。
ところが、舛添の後任は「舛添どころではなく真っ黒」な人間になりそうだというのだ。対抗馬の増田とて金銭疑惑が書き立てられている。これなら、東京都知事選挙などやる必要がなかった、舛添より金に汚い人間が都知事になるくらいなら舛添のままで良かったということになりかねない。
私は今年5月14日付の『kojitakenの日記』に、「もう東京都知事選なんてうんざりだよ。やってくれるなそんなもの。舛添は好きではないが、都知事選やってももっとひどいのが出てくるだけだ」という長ったらしいタイトルの記事を書いた。この記事で私は「踏ん張れ舛添」などと書いて批判を浴びたが、「舛添どころではなく真っ黒」で、しかも極右で新自由主義者でもある、明らかに舛添よりも「もっとひどいの」が出てくることが確実な情勢だというのだから、「ほれ見ろ、言わんこっちゃない」と言いたくもなる。
こう書くと、「鳥越にはたいした政策がなく、老齢で健康不安もある」というお決まりの反応が返ってくる。だが、ネットで観察していてつくづく思ったのだが、そんな人間に限って具体的な政策については何も書いていない。「たいした政策がなく、老齢で健康不安もある」というのは、さんざん舛添の「公私混同」を言い立てたと同じ、テレビのワイドショーが形成した紋切り型(ステロタイプ)に過ぎないのである。実際には、たいした政策がないことに関しては小池も増田も鳥越と大差ない。
かくいう私自身も都知事選に関して政策に触れた記事など一本も書いていない。2006年にブログを始めて以降、もっとも力を入れた東京都知事選は、私自身が東京都民でなかった頃の2007年の知事選だが、この時には各テレビ局が候補者を呼んでの討論会を欠かさず見た。政策論議はそれなりに活発で、特に選挙戦の後半に行われたフジテレビの討論会では、吉田万三氏と黒川紀章氏に加え、最初あまりエンジンのかからなかった対抗馬の浅野史郎氏も調子を上げてきて、この三氏が政策論議において石原慎太郎を圧倒した。石原は他の主要3候補の猛攻を受けて撃沈したというのが論戦を見た私の感想だった。しかし、選挙の結果は選政策論争とは裏腹に、石原の圧勝だった。
つまり、東京都知事選の結果を左右するのは政策などではない。それは大阪府や大阪市の首長選でも同じことだろう。
東京都(や大阪府市)の首長選は、事実上テレビのワイドショーが勝者を決めるようなものだ。そのワイドショーは、つい先日まで政治と金の問題で前知事を追及して辞任に追い込みながら、今回知事選の元対抗馬(現穴馬)にも一役買ったと思われる「なんとか砲」が「自民党の身体検査の結果は『真っ黒』。舛添さんどころじゃない」と認定した人物を、「しがらみのない何とやら」として天にも届かんばかりに持ち上げる。何たるダブルスタンダード。そしてワイドショーの言うことをを鵜呑みにしているだけの人間が、ネットで「□□さんは政策ガー」などとしたり顔が目に浮かぶような文章を書く。こんな不愉快なことはそうそうあるものではない。
安倍晋三としては万々歳の結果に終わりそうだ。ここで指摘すべきポイントは、仮に今後小池百合子が「政治と金」の問題で「文春砲」などの攻撃を受けることがあっても、自民党は小池百合子を推薦しなかったという言い訳が成り立つことだ。仮に小池が辞任に追い込まれれば、その時は改めて増田寛也でも擁立すれば良い。その時は、今回そうなるであろう惨敗によって民進党代表の座を追われそうな岡田克也に代わる民進党右派の代表が自民党に相乗りしてくれるだろう。小池が攻撃を受けないなら受けないで、極右にして新自由主義者という小池百合子の立ち位置は、もともと安倍晋三とは相性抜群なのである。どちらに転んでも安倍晋三にとって利益こそあれ不利益など全くない。今頃安倍晋三は笑いが止まらないのではないか。
東京都知事選は、今回もまたろくでもない経緯をたどったあげくに最悪の結果を迎えることになりそうだ。
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ちょうど今しがた『誰が「橋下徹」をつくったか』 http://amzn.to/2ajl8xk の
著者・松本創が呟いていたのが目に止まったんですよね。
https://twitter.com/MatsumotohaJimu/status/757353045562761216
「既成政党・既得権益の打破、反権威・反権力、改革断行、民主主義や庶民・弱者目線といった力強くわかりやすく溜飲の下がる言葉に共感して、あるいは旧勢力に“お灸を据える”意味で、清新なオルタナティブ勢力を選んだつもりが、実は最も恐るべき、民主主義の敵を選んでしまっている」
https://twitter.com/MatsumotohaJimu/status/757359391116886016
「最初から“独裁者”や“極右”や“民主主義の敵”みたいな強面で登場してくるわけないやんか。“民主主義って素晴らしいですね”“強い都市や国を取り戻そう”と言い、旧勢力の批判者や改革の断行者として、たとえば“庶民の不満や本音を全部言ってくれる”テレビの人気者みたいな顔で表れる」
2つ目の呟きには多少首を傾げるとこがありますけど、小池に支持が集まる背景をある程度は説明しているとこがあるんですよ。春の補欠選挙の際に某野次馬が「政策よりもスローガンで勝負するか、有権者のプロテスト心理にアピールするべき」って自説を開陳してましたけど、まさにそれで小池が優勢になったって皮肉なハナシになっているんですよね。まぁ「テレビの人気者」ってことだからスキャンダルが起きれば直ぐに攻撃対象になるのは間違いないだろうし、そうでなくても(橋下がそうだった様に)テレビ上での言動でも批判を免れ得ないことをするのは少なからずあったりした訳です。しかし、それらでさえ結果的には“ネタ”にしかならず、いざ本番になるとわかりやすく溜飲の下がる言葉に共感して、あるいは旧勢力に“お灸を据える”意味で、清新なオルタナティブ勢力ってイメージで選んでしまう、その候補者がどんな立ち位置でどんな社会観や政策の持ち主かってのさえ“ネタ”のレベルになってしまうんですよね。
そういえば「清新なオルタナティブ勢力」と言えば、中野晃一辺りも「オルタナティブ」 http://amzn.to/1OaBKC7 って言葉をよく使うんですけど、自分にはこれが逆に橋下や小池的なるものに回収される一つの要因・そしてその反動として「旧来型の同一性(アイデンティティ)に依拠した団結」(=“ソフトな極右”)への期待を集める遠因にすらなっているのは流石に考え過ぎでしょうか?
2016.07.25 09:34 URL | 杉山真大 #- [ 編集 ]
>鳥越俊太郎の半世紀前のスキャンダルを暴いた「文春砲」が
文春が取り上げたのは半世紀前のスキャンダルではありません。「半世紀前」は取り消してください。
鳥越を擁護したい一心でか、鳥越支持者の一部がツイッター等で記事になった事件の被害者女性を中傷しているのを苦々しく眺めています。
中にはかつて鳥越が働いていたジャーナリズムそのものを貶め葬り去ろうとするような擁護ツイートまで流れておりますね。
直接都知事選とは関係ない周縁事象というか背景的な面でいろいろ可視化されて、なんとうか、鬱になりますね。
ま、見なければ済むことかもしれませんがね。私は都民でもないし。
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