「グロースハック」という言葉を聞いて、みなさんはどんなイメージを想起しますか?
正直、反射的に拒否反応を示す方も多いのではないでしょうか?
グロースハックという新しい名前を使ってはいるが、実際にやっているのはただのABテストや最適化作業じゃないかと。
グロースの本まで出している自分ですが、そういう“気持ち悪さ”をグロースハックに関するイベントや記事で感じることは正直多いです。
しかし、結論を先に言ってしまえば、そうした”違和感”や”気持ち悪さ”は、グロースハックについて語る側、そしてその聞き手のグロースハックという言葉の定義のズレによるものだと考えています。
この記事ではあえて、「グロースハックとは」という陳腐化したテーマについて書きたいと思います。
日本の他のメディアやイベントで語られるような「グロースハック」とはかなり違っているので、この記事を読み終える頃には、上記のような”違和感”は少しは解消出来ているのではと思います。
マーケティングとの違いから考えるグロースハック
「グロースハックとは?」を考える上で、欠かせないのがマーケティングとグロースハックは何が違うのかという視点です。
結論を言ってしまえば、「マーケティングの4P」、すなわち、Product:製品、Price:価格、Promotion:広告宣伝、Place:流通というマーケティングにおける4つの戦略軸のうち最初のP、「Product:製品」を定数として扱うか、変数として扱うかが決定的に異なります。
皆さんが下図のような洗剤の顧客を増やすというミッションを任されたと想像してください。
さきほどの4つのPを戦略軸として考えていくわけですが、現実的に一つだけ変数ではなく定数なものがありますよね。
そうです、Product:製品です。本来的的には、マーケターはProductの設計から全て含めて考えていくべきですが、新規商品開発でもない限り、実際に生産ラインが既に立ち上がってしまっている製品を変えていくのは至難の技です。
よって、現実的には製品以外の広告宣伝や価格、流通などの変数をいじって販売数を伸ばしていく方向性になります。
その意味で、上記のような“ハードウェアの製品”においてはProduct:製品は定数であると言えます。
では次に、みなさんがFacebookの利用者を増やしてくれというミッションを与えられたと想像して下さい。
今度はProductを含めて4つのPすべてを変数としてアクションが取れますよね?
改善すべき箇所を示す分析データが上がってきたり、目の前のユーザーが明らかに製品の機能に不便さを感じていたら、最速でその日のうちに修正した製品をユーザーのものに届けることができます。
この意味で“ソフトウェアの製品”においては、Product:製品は変数であると言えるのです。
これはなにもFacebookのように100%ソフトウェアの製品だけでなく、Fitbitなどのように「外はハードウェアだが、中身はソフトウェアである製品」においても適用できます。
外のハードウェアは定数だとしても、中身のソフトウェアを変数として様々なアクションを取っていけるのです。
そうした”中の変数”をうまく使ってグロースを達成した事例がRICOHのThetaです。
RICOHのThetaは360度の全天球写真が簡単に撮れるカメラです。
Thetaのユーザーは撮った写真のHTMLコードを上記画像のように生成し、自身のブログに貼ることができます。
そのブログに訪れたユーザーが見慣れない360度ぐるぐる回して見れる画像に触れることで、Thetaという製品を認知の幅が広がるという構図になっています。
グロースハックの正しい定義
このようにして、ソフトウェアが台頭することで、4PのうちのProduct:製品も変数として扱えるようになりました。
むしろ積極的にその変数をいじっていって、目指す数値目標を達成していこうと。
そしてそうした新しい考え方ができる人材を採用するためには新しい言葉が必要である。
そうして生まれたのがグロースハックという言葉です(※)。
※グロースハッカーという言葉の生みの親はショーン・エリスという人で、実際に上記のような採用の文脈でこの言葉を使い始めたそうです。
ここで、今までの文脈を踏まえて改めてグロースハックという言葉の定義をするとこうなります。
数値やユーザーの声を分析し、
4Ps of MarketingのうちProductも変数として扱いながら、
ユーザーの数や質、売上をGrowthさせる一連の活動
したがって、グロースハックとマーケティングの関係性としては下図のようなイメージを持っています。
定数だったProduct:製品を変数として扱う分、プロダクトデザインやエンジニアリングなどの領域が加わってグロースハックの方が”広い”概念となっています。
この図から、「Facebook広告などの広告出稿の話はグロースハックに入るのかどうか」という議論の答えは明らかでしょう。
ここで一つ注意していただきたいのが、上記の図の関係はあくまで概念の範囲の大きさの話で、グロースハックがマーケティングよりも概念として優っているなどということは決してないということです。
概念の範囲とは別に、深さという話がある訳で、グロースハックは領域が広い分、悪く言えば「広く浅い概念」です。
一方でマーケティングは広告宣伝や流通戦略などのウェイトが高い分、グロースハック文脈で語られるそれよりも理論ははるかに深いです。
どちらが良いかというよりも、企業や製品の性質によって用いるべき概念が異なるという感じです。
最後に余談
グロースハックという言葉が生まれた国である米国では、グロースハックという言葉ではなくグロースマーケティングという言葉が使われています。
(自分も向こうではグロースマーケターだと自己紹介してました)
背景として、”ハック”という言葉につられて小手先に走るスタートアップが多かったことや、スタートアップバブルによって大量の資金調達ができたのでプロダクトに投資するよりも広告に資金を投下することの方が戦略的優先度が高かったことなどが挙げられます。
しかし今度はマーケティングという言葉につられて、プロダクトの本質的な改善がおざなりになっている感は否めません。
スタートアップバブルも落ち着いたので、今後この概念がどういう変質を遂げていくのか少し楽しみです。
ちなみに自分が今いるインドでは、いまだにAirbnbやHotmailの事例が声高に紹介されているグロースハックのイベントがあったりと、まだまだ普及していないなという印象です。
とはいえ、スタートアップにいるインド人は英語に不自由しないため、英語のリソースから直接学んでいっています。
キャッチアップスピードは日本よりも圧倒的に早いなというのも同時に感じていることです。
まとめ
今記事によって、グロースハックという言葉の”違和感”は少しは拭えましたでしょうか?
グロースハックは本来は時代の変化を受けて生まれた本質的な概念なのですが、間違った理解の上に議論が展開されてしまっているので、多くの人に勘違いされてしまっています。
もしこの記事を読んでグロースハックに対するアレルギーが少しでも和らいだら、ぜひとも皆さんのプロダクトの成長のためのツールとして使いこなして頂ければと思います。
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現在インドで現地スタートアップのメンタリングをしているのですが時間的に少し余裕があるため、Skypeでグロースの相談を受け付け始めました。
ビザスクというサービスで受付しているので、興味がある方はぜひ。
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