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<メディアの風景>見えるものは現実?=武田徹

 日本でも配信が始まったゲーム「ポケモンGO(ゴー)」は、かつて一世を風靡(ふうび)した「ポケモン」の単なるスマートフォン版ではない。拡張現実(AR=Augmented Reality)技術を採用し、カメラが捉えた風景画像に重ねてゲームのキャラクターを画面に表示。現実世界がポケモンワールドに変わったかのような楽しさを味わえるが危うさもはらむ。

 7月初旬にリリースされていた米国では、4日間で750万というスマホゲーム史上最高のダウンロード数を記録したが、ゲームのキャラクターが現れる公園などに大勢が殺到。モンスター相手に夢中になってスマホを操作する人と歩行者が衝突するなど社会問題を引き起こした。そのため、日本でも配信前から盛んに注意喚起がなされていた。

 とはいえ「衝突」はポケモンGOだけが引き起こすわけではない。人は現実の光景に情報を上書きした風景を見ている。ARはそれをなぞった技術に他ならない。たとえば3・11の原発事故後、放射線量の数値を前に2通りの行動がありえた。被ばくに関する過去の学説を踏まえ、避難指示区域外の線量なら危険は少ないと考える人がいた一方で、「御用学者」は信じられない、被害が出てからでは遅いと自主避難する人がいた。

 そこでも、被ばくリスクという「モンスター」がうごめく風景を見た人とそうでない人がいる。原理主義的な宗教を信じる人とそうでない人の間でも、見ている風景は実は異なっているのだろう。

 「モンスター」が見え、それと必死に戦っている人の心情は、見えていない人には理解できない。逆もまたしかりだ。だから対話はかみ合わず、時に衝突が生じる。それを避けたければ、違う風景を見る者同士を共生させる技術を社会は必要としよう。

 ポケモンGOは自分とは別の風景を見ている人がいるということを広く気づかせる機会になるとは言えないか。ARゲームの「多風景問題」であれば混雑時のプレーを禁じたり、プレーヤーが危険な場所に入らないように対策を講じたりすれば済むかもしれない。しかし、それは文化や価値観の相違によって異なる風景を見ている人と共生する技術の必要性を理解し、社会的に実装していく一つの通過点にもできるのではないか。=ジャーナリスト、評論家

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