私がテニスを始めたのは、4歳のころでした。そして17歳でプロとなり、34歳で引退。テニスをはじめとするスポーツを通して、私は様々な力を身に付け、成長することができました。
今回のコラムでは、スポーツを通して私が学んだ「力」について、お話しさせていただきます。
「試す力」 興味を持ったことに向き合うこと
みなさまや、みなさまのお子さまは、何か習い事をやっていらっしゃいますか?子どもは、色々なことに興味を持ち、自分でもやってみたいと思うものですよね。私も小さいころは、綺麗なコスチュームに憧れて、クラシックバレエやフィギュアスケートを習っていたこともありました。
ほかにも、お友達がやっていて興味を持った体操や、赤ちゃんのころからやっていたスイミング。毎日違う習い事に通っていたので、まるで私の母が“教育ママ”のように思われるのですが、それはまったく逆なんです。全部、私自身が興味を持ち、やりたいと思ったものをお願いしてやらせてもらっていました。母は私が興味を持ったことにはちゃんと向き合ってくれて、見学に行き、一緒に体験してくれました。そして「自分でやりたいと言ったからには、すぐにやめずにある程度は続けようね」と母と約束した上で、様々な習い事をしていたんです。
もしかしたら「将来はサッカー選手になって欲しいから」と子どもがあまり興味を示していないスクールに入れたり、「うちの子に水泳は向いていないから」とやりたがっていることをやらせない、なんていうこともあるかもしれません。でも親の尺度で「これはいい、これはダメ」と決めてしまうことは、とても残念だと思います。もちろん、金銭的・物理的に難しい場合もあると思いますが、できるだけ、はじめから決めつけてしまわずに、子どもが興味を持ったことを、子どもの目線で一緒に見つめて欲しい。
始めてみたけれど、合わなくてやめたくなることもあるかもしれません。何でもやってみないと楽しいか楽しくないか、向いているかいないか、わかりませんよね。子どもだけじゃなくて、大人だってそうです。だから子どもの様子をしっかりと見て、その子に合った環境を見つけるサポートをして欲しいな、と思います。
私の息子はまだ乳児ですが、何をやりたいと言うのかな?と今から楽しみです。当然、テニスに近い環境で育つので、触れる機会も多くなると思いますが、自分の子とはいえ、性格は人それぞれ。息子が興味を持ったことを、私も一緒に楽しみたいですね。
「決断する力」 やると決めたことは貫くこと
私が初めてテニスに出会ったのは、4歳のときでした。本格的に始めたのは小学2年生。自宅の近くに出来たスクールに通い始めると、もう楽しくて楽しくて。両親に「どうしてもテニスをやりたい。テニスに集中したい」とお願いして、他の習い事を全部やめました。そのとき両親は一切反対せず、私の選択を応援してくれました。
高校に入学するときもそうでした。私は幼稚園から高校まである女子一貫校に通っていました。キリスト教主義の女子校で、進学校でもあったので規則も勉強も厳しかったんです。だから中学生のときはテニスと勉強の両立が本当に大変。高校からはスポーツに理解のある学校に進みたい、と両親に伝えました。そのときも両親は、「あなたが選んだのだったら、いいんじゃない」と言って、私の考えを尊重してくれたんです。テニスのために、世間的には評価が高く、かつ長年馴染んだ環境を飛び出して生活を変えることは、大きな決断でした。しかもその時点では、プロになれるかなんて全くわかりません。もしかしてプロになれなかったら、そのまま同じ学校に通ったほうが良かったと思うかもしれない。でもその時の私には、テニスを続けることが第一。「自分にはこれしかない」と明確だったから、決断できたのだと思います。
決断力と判断力は、スポーツをする様々な場面で必要な力です。今、自分がやるべきことを判断して、決断する。たとえば、朝早く起きることだって、自分がやるべきことだとわかっていれば、行動に移せる。そうして、自分のタイムマネジメントが上手になることも、選手としての成功につながっていくと思います。
「感じる力」 両親のサポートに感謝し、応えること
両親、特に母は素晴らしいサポートをしてくれました。スクールへの送り迎えやお弁当作りをはじめ、物理的、精神的に様々な面で支えてくれました。小学生のときに「ママは、自分の時間のほとんどを私のために使ってくれているんだ」と感じて「早く、自分で運転免許を取らなくちゃ!」と思っていたんです(笑)。本当に母が私にかけてくれた時間と労力を考えると、感謝しかありません。ただ母は、当時を振り返って「とても楽しかったわよ」と言ってくれる。それが救いになっています。
私に限らず、トップアスリートのパパ・ママたちの子どもに対するサポートは、並大抵のものではありません。相当の愛情とエネルギーがないと、成し得ないことばかりです。でもみなさま口を揃えて「義務ではなく、やってあげたいという気持ちがあったから、できた」とおっしゃるんです。その熱意の源は、子どものキラキラしている姿。子どもが一生懸命になれることに出会い、頑張る姿をみていると、親も「何かやってあげたい」という気持ちが、自然に湧き出てくるのかもしれませんね。私も親になって、その気持が少しわかるようになりました。ただ、私は母ほどにはできないかもしれませんが……(笑)。母は本当に、エネルギッシュな人なんです。
まだまだお伝えしたい「力」についてのエピソードがありますので、続きはまた次回お話しいたしますね。それでは、良い年末をお過ごしください。
※このコラムは、保険市場コラム「一聴一積」内に、2015年12月24日に掲載されたものです。
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PROFILE
杉山 愛 (すぎやま あい)
元プロテニスプレーヤー、スポーツキャスター
1975年神奈川県生まれ。4歳でラケットを握り、15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位に輝く。17歳でプロに転向し、17年間プロツアーを転戦。グランドスラムでは女子ダブルスで3度の優勝(2000年全米オープン、2003年全仏オープン、2003年ウィンブルドン)と、混合ダブルスでも優勝(1999年全米オープン)し、グランドスラムのシングルス連続出場62回の世界記録を樹立。オリンピックには4回連続(アトランタ、シドニー、アテネ、北京)出場。WTAツアー最高世界ランクで、シングルス8位、ダブルス1位。2009年10月、東レパンパシフィックオープンを最後に現役を引退。2011年11月に入籍。現在は、後生育成活動やコメンテーターとして活躍中。
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