随分昔、おそらく幼稚園児だったころ、バイオリンを習うことになった。自分で習いたいと言った覚えはないので、親がやらせたかったのだろう。
はじめてみたら、これがつらい。音はうまく出ないし(これは周囲もつらかっただろう)、何より楽器をあごに挟んだまま弾き続けると痛くて仕方がないのだ。力の入れ具合とか、何かこつがあるのだろうが、どうしても痛いのが嫌で、キラキラ星(ドドソソララソ、というやつです)練習曲だけで、すぐに辞めてしまった。というわけで、この曲には、どうも良い思い出がない。
ところが、最近になって、素晴らしいキラキラ星変奏曲の演奏を聴いて、感動する機会があった。金子三勇士さんというピアニストの手になるCDに入っている演奏だ。金子さんは、日本人の父、ハンガリー人の母から生まれ、6歳からハンガリーに音楽留学。飛び級で、11歳で国立リスト音楽大学に入ったという俊才である。
「ラ・カンパネラ~革命のピアニズム」と題したこのアルバムには、得意中の得意のリスト、ドビュッシー、ショパンなどのレパートリーも入っているのだが、個人的な思いもあって、キラキラ星変奏曲を繰り返し聞いている。
彼のピアノを聞いていて思うのは、抑制と感情の爆発のバランスが素晴らしいということ、さらに「この曲を演奏できるのが嬉しい、この曲の中に隠れているものを可能な限り引き出したい」という前向きな気持ちが伝わってくること。
個人的な趣味だが、感情を出す演奏家が好きな半面、あまりにもそれが表に出ると、こちらが引いてしまう。あくまで、抑制的に曲全体を構築しながら、その陰で、隠しようのない感情のきらめきや爆発が見て取れる、というのが好みだ。
金子さんの演奏は、このバランスがとても優れている上に、表現できることへの喜びや前向きな気持ちが、どこからともなく伝わってくる。聞き終わると、こちらもなんとなく嬉しくなるような演奏家なのだ。