地震や大雨、火山の噴火など自然災害が多い日本で、原発事故のリスクをどう下げるか。

 福島第一原発事故の反省を踏まえて発足した政府の原子力規制委員会が、4月の熊本地震を機に真価を問われている。

 一昨年まで委員長代理を務めた地震学者の島崎邦彦・東京大名誉教授が、熊本地震などの観測結果を基に「関西電力大飯原発(福井県)では、想定される地震の揺れを過小に見積もっている恐れがある」との見解を公表した。従来の計算手法に問題があると指摘している。

 規制委は原子力規制庁に再計算を指示し、その結果を受けて一度は「過小評価にはなっておらず、揺れの想定を見直す必要はない」と結論づけた。

 規制委は先週、この再計算に無理があったとして、判断を白紙に戻した。にもかかわらず、田中俊一委員長は、島崎氏の主張が専門家の間で広く認められるまで見直さない考えを示唆した。「根拠が確立されなければ見直すわけにはいかない」との理由である。

 東日本大震災と原発事故から得た教訓を思い起こしたい。

 当時の想定よりずっと大きな津波が過去にあったという知見がありながら、対策を講じないまま事故に至った。さまざまな科学的知見を反映しながら「想定外」をなくすことを突きつけられたのではなかったか。

 規制委は「待ちの姿勢」に陥ってはならない。島崎氏の指摘について、どの程度深刻な問題なのか、自ら判断すべきだ。独力ではこころもとないなら、地震学の専門家を集めて検討を求めればよい。

 地震や噴火などに関しては学術的な知見が十分ではない。一つの地震や噴火が従来の常識を大きく覆すこともある。熊本地震でも震度7が相次ぎ、当初は本震と見られた揺れが前震だったとわかった。島崎氏の主張に限らず、幅広く検討課題を引き出す取り組みがあってよい。

 それだけに、学界の役割はいっそう大きくなる。

 東日本大震災の後、日本地震学会や日本活断層学会、土木学会など50以上の学会が「防災学術連携体」を立ち上げた。情報共有や交流を深め、防災や減災への貢献をうたう。原子力関連だけでなく、さまざまな科学的主張のうち重要だと考えるものを紹介し、対応を促す役割を期待したい。

 異見に耳を傾け、最新の知見を素早く生かす。行政と学界は島崎氏の指摘への対応を通じ、その仕組みを連携して確立していかねばならない。