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【宮家邦彦のWorld Watch】
南シナ海めぐる裁定、国際法の分かる常務委員がいなかった 中国の「音痴」ぶりは悲劇的だ
中国・戦国時代に法家が説いた「法治」とは儒家の「徳治」に対する概念であり、法は権力者がつくるものだ。被統治者は法の支配ではなく「立法者の支配」を受けて当然と考える。その意味で今回の国際司法判断は、人権や法の支配など欧米的概念と中華的法秩序との相克の新局面と見ることも可能だろう。
昭和7(1932)年、リットン調査団は、日本による中国主権の侵害と、満州に対する中華民国の主権を認める一方、日本の特殊権益をも認め、同地域に中国主権下の自治政府を建設する妥協案などを勧告した。この報告書を日本は「満蒙はわが国の生命線」として拒否する。文献によれば、当時は日本政府関係者でさえ、「国際連盟は遠い欧州の機関であり、アジアを知らない連中が規約一点張りで理不尽な判断を下した」と感じていたようだ。
歴史は繰り返さない。だが、今の中国指導者や一般庶民も似たような感覚を抱く可能性は十分ある。戦前日本の外交・国際法「音痴」は悲劇的ですらあった。現在の中国がこれを繰り返すか否かは、北京の外交政策決定プロセス次第だろう。外交担当の政治局常務委員が生まれるのはいつの日のことだろうか。
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【プロフィル】宮家邦彦
みやけ・くにひこ 昭和28(1953)年、神奈川県出身。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。第1次安倍内閣では首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
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